AIを導入して最先端の安全装置を使ってもやっぱり最後は「熟練の職人技」! 一度事故ると凄まじい被害になる「クレーン操作」の最前線
クレーンには安全装置が充実!
クレーンは、重い荷物を釣り上げることができるたいへん便利な装置だ。土木、建設現場でも、日々多くのクレーン車が活躍をしており、我々が目にする機会も多い。大きなクレーンが鉄骨などの資材をもち上げる様子には迫力があるから、思わず立ち止まって見入った経験のある人もいるだろう。 【画像】クレーン車が転倒した事故画像を見る しかし、クレーン操作は傍で見るほど簡単なものではない。オペレーターは免許を取得したプロであり、細かな安全確認を重ねた上で慎重に作業を行なっているのだ。それでも、不幸にして事故が発生する。一般社団法人日本クレーン協会の統計によると、クレーン車による事故で多いのは、吊り荷の落下、吊り荷の衝突、車体の転倒、(作業床からの)作業員の転落、(クレーン車と)作業員の接触などだそうだ。なかでも吊り荷の落下や車体の転倒は、まわりを巻き込む大きな被害につながることが多いとされている。 もちろん、クレーン車が倒れないようにするための安全装置は、メーカーが技術の粋を集めて車両に装着し、それは日々進化を続けている。とくに近年では、各種センサーやそれらによって得られた情報を、瞬時且つ正確に判断するコンピュータを搭載している機種が増えたので、死傷事故は格段に減少しているのだ。 主な安全装置は以下の通り。 ・過負荷防止装置 クレーンにかかる過大な負荷を検知し、転倒または破損などを未然に防止する装置。 ・巻過防止装置 巻き上げ用ワイヤロープの巻き過ぎで、フックがブーム、ジブ、シングルトップに当たることを防止する装置。 ・油圧安全弁 油圧ポンプから連続的に送り出される作動油が高圧になったとき、油圧回路が破壊されないように防ぐ装置。 ・油圧シリンダロック装置 ブーム起伏シリンダ、ブーム伸縮シリンダ、ジャッキシリンダに装着されているカウンタバランス弁やパイロットチェック弁などで、作動油漏洩の際に機器の作動を停める装置。 ・玉掛けロープはずれ止め装置 玉掛けロープがフックからはずれることを防止する装置。 ・作動範囲制限装置 ブーム角度(上限および下限)、揚程、作業半径、旋回位置(左および右)をあらかじめ登録し、クレーンの作動範囲を制限する装置。 ・旋回自動停止装置 定格総荷重表(ブーム、ジブの長さ、作業半径ごとの吊り上げ能力をまとめた表)の大きい旋回位置から、小さい旋回位置に旋回したとき、オーバロードになる前に旋回が自動停止する機能。 ・起伏緩停止機能 ブーム起伏動作停止時にブーム起伏速度を減速させることで、荷揺れを緩和する機能。 ・アウトリガー張出幅検出装置 アウトリガー張出幅を検出し、過負荷防止装置にアウトリガー張出幅を表示する機能。 また、これら装置のセンサーが検出した結果を、モニターに表示したり必要に応じて警告、作動停止をしたりする機能も、開発、実用化されているのだ。 しかし、これだけ多くの安全装置を装着しても、雨による地盤の緩みや突風などの突発的な事象や、工期短縮、効率化が優先されて安全確認がおろそかになるなどして、クレーン車の転倒事故が発生することが考えられる。 建設機械はAIを導入して自動化、無人化も進められているというが、我が国の土木、建設現場は狭いところや生活圏に隣接しているところが多い。AIが判断し切れない状況も少なくないだろう。つまるところ、熟練のオペレーターを養成することが、事故防止にはもっとも有効な手段なのかもしれない。
トラック魂編集部