スター誕生の瞬間を目撃したような高揚感! 山崎育三郎が豊かな表現力で魅せるミュージカル『トッツィー』
ミュージカル『トッツィー』が開幕した。 本作の原作は、ダスティン・ホフマン主演の映画『トッツィー』。融通の効かない性格が災いして、才能はあるのに仕事に恵まれない中年俳優が、女装してオーディションを受けたところ見事合格。瞬く間にスターへと上りつめるさまを描き、本国アメリカで年間興収ランキング2位に輝く快挙を打ち立てた。 【全ての写真】山崎育三郎が主演を務めるミュージカル『トッツィー』(全15枚) そんな大ヒット映画が初めてミュージカル化されたのは2019年。舞台を現代のブロードウェイに置き換え、華やかなミュージカルコメディに生まれ変わり、トニー賞ミュージカル部門で、最優秀脚本賞、主演男優賞受賞をはじめ、計11部門にノミネートされるなど、絶賛の嵐を浴びた。 そして2024年、ついに日本初上陸。主演に山崎育三郎。その他のキャストにも華と実力を兼ね備えた顔ぶれが並び、初日前から高い期待が寄せられていた。嘘から始まるサクセスストーリーは、悲しいニュースの続く日本をどんなふうに照らしてくれるだろうか。
音楽とダンスが誘うミュージカル『トッツィー』の世界
めげない人は、強い。どんな困難に見舞われても、決して屈することなく、知恵と根性で這い上がっていく姿に、観客は笑いと勇気をもらう。赤い眼鏡に、ウェーブのかかったボブヘア。高いヒールで道を切り開く山崎育三郎の勇姿に思わず拍手を送りたくなったのも、彼の演じるマイケル・ドーシー&ドロシー・マイケルズが、めげない人だったからだろう。 演技への情熱は人一倍。だけど、完璧主義な性格のせいで、すっかり扱いづらい俳優と見なされていたマイケル・ドーシーには、まるで仕事が来ない。いつの世も仕事に求められるのは、実力よりも、適度な柔軟性とコミュニケーション能力なのだ。 ところが、仕事ほしさに“ドロシー・マイケルズ”と名乗り、女性として参加したオーディションで敏腕プロデューサーのリタ(キムラ緑子)に気に入られたマイケルは合格。脇役だったはずが、主役としてプレビュー公演の初日に立つこととなる。 そんなドタバタ劇に軽快な味付けをもたらしているのが、デヴィッド・ヤズベックの音楽とデニス・ジョーンズの振付だ。開演の合図として、音楽監督・指揮の塩田明弘が客席に向かって挨拶。観客を煽るように手拍子を求める。弾けるサウンドに、高まるクラップ。この作品は、決してかしこまって観る必要はない。思い思いに楽しんでくれればそれでいい。作品と観客の間で、秘密のメッセージのような“約束”が最初に交わされる。 それを証明するように、ステージ上も常にハイテンションだ。アンサンブルによるダンスが場面を賑やかに彩る。時折バレエを取り入れながらも、全体的にはコミカルでキャッチーな動きが多く、一人ひとりの表情も百面相のように豊かだ。だから、観ているだけで私たちの鼓動も一緒に踊り出す。初めて体験するミュージカル『トッツィー』の世界がどんなものか。音楽とダンスがわかりやすく観客をガイドしてくれている。