【中小企業M&A】頼るべきは「FA」か「仲介」か?「仲介のほうがスムーズに売却成立する」という主張に潜むリスク
「FAはスムーズなM&A成約を阻害する」という誤解
次に、「FAはスムーズなM&Aの成約を阻害する」というポイントについて考えたいと思います。 FAの仕事は、お客様の想いをM&Aで実現する支援を提供することです。そのすべてのプロセスでお客様の利益を守り、追求することに責務を負うため、顧客が受け入れるべきでない条件を買い手が求めてきた場合、「受け入れるべきではない」とはっきり顧客に伝えます。ただし、単に拒否することに終始しM&A取引を不成立にしてしまっては、本来の役割を果たしているとは言えません。買い手に対して、売り手にとってその条件が受け入れがたいことなどの合理的な説明を行い、買い手が譲歩できるラインを見定めて、場合によってはこちらから代替案を示すことでM&A取引をまとめていくのもFAの仕事です。 FAは顧客のために複数の交渉論点を整理、解説をしたうえで、最終的に顧客が意思決定できる環境を作ります。当事者としては、リスクの所在を理解したうえで受け入れるかどうかの判断をすることができます。これは大きな決断を行うオーナー経営者にとっては非常に重要なことです。 仲介サービスでは、当事者の立場からこうした交渉支援が提供されることはありません。こちらからNOと言えば代替案を提案してもらえることはありますが、M&A仲介の交渉支援といった場合、そうした双方の妥協点を探る支援のみです。何も主張しなければ、M&A仲介会社の用意した株式譲渡契約書の雛形のまま進められていくことも多いでしょう。「M&A仲介サービスであればM&Aがスムーズに成立する」という主張には、各交渉論点とそこに所在するリスクを当事者が十分に理解することなく取引を進めてしまっている懸念も含まれるのです。 M&A仲介会社の株式契約書の雛形に潜む売り手側のリスクについては、本連載の別の機会において解説をしたいと思います。 作田 隆吉 オーナーズ株式会社 代表取締役社長
作田 隆吉