堂場瞬一は一日5時間しか執筆しない!? 最新作は自身の体験と飽くなき好奇心から生まれた、大正時代の作家と編集者を描く『ポップ・フィクション』【インタビュー】
――現代を舞台に小説を書かれるときは、舞台となる街を実際に歩いたりされると伺ったのですが、今回はどうやってイメージを固めていったんでしょうか? 堂場:今回は舞台となる街よりも、当時の雑誌を取り巻く雰囲気がどんなものだったのかを資料を読んだりして調べました。幸い日本の出版社は昔の本を多く残してくれているので資料は問題なく集まったのですが、とにかく量が膨大で。結構時間をかけて読みましたね。創刊号を読んで、「こういうのが流行ってるのか」とか「こんなくだらないこともやってるのか」とか。今でも続いているものがあったりと、発見は多かったです。 ――堂場さんはすでに警察小説やスポーツ小説で地位を確立されていると思うのですが、その上で新しいことに挑戦する原動力はどこから来るのでしょうか? 堂場:いや、書きたいから書いているだけで、志みたいなものはないですよ。やりたくないことは書きたくないですから。もともと興味の範囲が広いので「これを書きたい」というものはすごくたくさんあるのですが、時間が足りない。ただ書きたいものがなくなったら作家としては終わりだと思っています。これからもいろいろな分野を書く予定ですが、それでも死ぬときに「あれが書けなかった、これが書けなかった」と言いながら死ぬんだろうなと思いますね(笑)。後悔しながら死にたいです。
一日5時間しか仕事はしていない、驚異の執筆スピード
――本作にはさまざまなタイプの作家さんが登場しますが、ご自身の体験だったり、見聞きしたりしたお話から着想を得ているんでしょうか? 堂場:これが、すべて想像なんですよね。「こういうタイプいるだろうな」みたいなことを考えて書けちゃうというか、それが小説を書くときのやりがいなので。この大正から昭和にかけての時代って、作家の数が今よりかなり少なかったはずです。でも媒体はどんどん増えるので、やたら注文がくるわけです。その中でみんなどう仕事をしていたのか。当時の作家と編集者のやり取りはあまり書き残されていなかったので、想像して書くのが楽しかったですね。 ――一番初めに思いついたキャラクターはやっぱり主人公ですか? 堂場:この作品の場合、主人公にはあまり色がないんですよね。相手を殴ったりはするけど、この時代ではそれもよくあることというか。だからそんなに激しいキャラクターでもないし、むしろいろんな仕事を渡り歩いているせいで、傍観者的な感じもありますよね。業界のことをちょっと斜めから見ている。そういう主人公は非常にやりやすかったですね。のめり込みがちな主人公でもいいんですが、今回は範囲がすごく広がっていく話なので、ちょっと斜め上から俯瞰できるような主人公だと全体の動きが見られるかなって。 ――ご自身の作品の中で、一歩離れたところから見ている主人公は多いんですか? 堂場:いますねやっぱり。もちろん本人が自分で爆弾を作っているような人もいるわけですが、爆発するのを少し遠くから眺めるような……。これって小説の視点をどこに置くかというテクニックの問題に繋がっていくと思うんですが、普通の一人称と神視点の中間みたいな視点をうまく作れないかなというのを最近ずっと試していて。そういうところから今回の主人公も生まれているのかもしれません。 ――一方作家さんは結構濃いキャラクターの方が多いですよね。気に入っているキャラクターはいますか? 堂場:いや、こういう人たちとはあまり付き合いたくはないですね(笑)。「編集者は大変だろうなあ。俺はこうはならないようにしよう」と反省しながら書いていました。