新札発行の経済効果は1.6兆円程度か:広く流通する最後の紙幣となるか
キャッシュレスを後押しする効果も小さい
また新札発行には、キャッシュレス化を後押しする効果があるとの指摘もあるが、実際には、その効果は大きくないだろう。新札対応のコストを節約するために、販売機などで新札対応を行わない業者は一定数あるだろう。あるいは、この機会に現金でなくキャッシュレスのみに対応する機種に入れ替える業者もあるかもしれない。 しかし、大手を中心に多くの業者は新札対応を行うとみられる中、一部の店舗の機種で新札が使えないからと言って、現金利用をキャッシュレスに切り替える人が、果たしてどれほど出てくるだろうか。
広く流通する最後の紙幣となるか
新型コロナウイルス問題が広がった際に、感染リスクを下げるために現金利用を控える人が増え、日本では遅れていたキャッシュレス化が進んだ。 次にキャッシュレス化が大きく進むのは、新札発行ではなく、日本銀行が中銀デジタル通貨(CBDC)を発行することがきっかけとなるではないか。信用力が高いデジタルの法定通貨をスマホ決済などで利用できるようになれば、人々のキャッシュレス化は進むだろう。そうなれば、日本での現金利用は大きく減少する。 CBDCの発行は、向う数年のうちにも正式に決まる可能性があり、2030年代には実際に発行されるのではないか。そうなれば、来月に発行される新札の流通もいずれ大きく減少するだろう。 日本銀行が1885年から約140年にわたって発行してきた紙幣のうち、本格的に流通し、広く利用される最後の紙幣になるという歴史的な意義が、来月発行される新札にはあるのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英