新札発行の経済効果は1.6兆円程度か:広く流通する最後の紙幣となるか
タンス預金への影響は小さい
新札発行がもたらす副次的効果として、タンス預金を減らすことが議論されているが、実際にはその効果は小さいだろう。 第1に、新札を発行しても旧札は使い続けることができる。そのため、タンス預金の旧札をそのままにしておいても問題は生じない。 日本銀行では、1885年から現在までに53種類の紙幣を発行している。その中で、1986年に発行が停止された聖徳太子の1万円札、1974年に発行が停止された板垣退助の100円札、1955年に発行が停止された二宮尊徳や武内宿祢の10円札、などが現在でも利用できる。紙幣が利用できなくなるのは、「法令に基づく特別な措置」が発令された場合のみであるが、それが発令されたのは、現在までに1927年、1946年、1953年の3回しかない。 第2に、それでも、新札が出回るようになると旧札は次第に使いづらくなることは確かだ。日本銀行によると、前回新札を発行した2004年には、1年間で6割の流通紙幣が新札に置き換えられていったという。そのため、タンス預金を持つ人は、保有する旧札を新札に替えていくことが予想される。 それでも、タンス預金を保有する目的に変化がない以上、タンス預金の金額は変わらない。新札発行をきっかけに、タンス預金を取り崩して消費を拡大させるといった効果は期待できないだろう。 今後、タンス預金が取り崩されるとしても、それは物価上昇による現金の実質的な価値の目減りや金利上昇による機会損失(現金で持っていても利子は付かない)の高まりがきっかけだろう。ただし、その結果、たんす預金が取り崩されて銀行預金や株式投資などに回るとしても、それは個人が保有する金融資産の構成(ポートフォリオ)が変わるだけであり、個人消費が増える訳ではない。 一部で、相続税の支払いを避けるために保有されているタンス預金をあぶりだすことが新札発行の狙いの一つ、との指摘も聞かれるが、それは考えにくい。