五輪が開幕間近 リオの治安は悪化傾向、警察も犯罪に加担
リオ五輪開幕まで10日をきったブラジルだが、国内では様々な問題が山積している。弾劾裁判の渦中にいるルセフ大統領と、彼女の前任者で国営石油会社を巻き込んだブラジル政財界を揺るがすスキャンダルに関与した疑惑が浮上しているルラ前大統領の2人は五輪の開会式に参加しないと表明しており、五輪開幕前にブラジルの政界や社会が一枚岩になれていない現状が露呈した。しかし、国内の政治スキャンダル以上にブラジルを訪れる外国人を不安にさせるのが、世界でもワーストクラスといわれる治安状況だ。内戦状態にあるわけでもないブラジルで、殺人によって年間に5万人が命を奪われている。
年間5万人が殺人事件で殺されるブラジル
8月5日に開幕するリオ五輪。組織的なドーピングが疑われ、ロシア人陸上選手に出場の道が閉ざされた。ブラジル国内でも、国家会計を粉飾したとして職務停止に追い込まれたルセフ大統領の弾劾裁判が五輪期間中も続き、1930年代以降最悪とされる景気低迷に具体的な打開策を見出せない政府に対して各地でデモが行われるなど、開幕を前にして競技以外の話題が先行している。 米CNNテレビは23日、複数の五輪組織委員会関係者の話として、約170万枚のチケットが未だに売れ残っている状態であると報じた。また、リオ五輪開催に反対するブラジル国民が約半数に達したとの最新世論調査の結果も伝えている。景気低迷や汚職疑惑に対するブラジル国民の不満や、ジカウイルス感染症に対する不安など、開幕前から多くの懸念材料が浮上しているが、最も懸念されているのがオリンピック期間中の犯罪の増加だ。 リオデジャネイロを州都にもつリオデジャネイロ州は、ブラジルで最も小さな州の一つだが、約1600万人が暮らし、州都リオデジャネイロの人口は約650万人だ。リオデジャネイロはブラジルで犯罪発生率が最も高い地域ではないが(ブラジルでは一般的に南部よりも北部の方が治安は悪いことで知られている)、近年の景気悪化に比例する形で犯罪も増加している。今年1月から5月の間にリオデジャネイロ州で発生した殺人事件は2083件。昨年の同時期と比較して、13%も増加していた。 単純に計算しても、1か月の間に400人以上が殺害されており、ニューヨーク市や日本全体で1年間に発生する殺人事件の件数を超えている(※)。国連薬物犯罪事務所が発表した統計によると、2014年にブラジル全土で発生した殺人事件は5万674件で、他国を大きく引き離す形で世界ワーストとなっている。世界第2位の人口で知られるインドよりも殺人事件が多く、殺人事件の被害者となる確率はアメリカの6倍以上となっている。近年、ラテンアメリカやカリブ海諸国で凶悪犯罪が増加傾向にあるが、年間1万件以上の殺人が発生する11か国の中で、約半数となる5か国がアメリカ大陸(アメリカ、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、コロンビア)にある。 (※)警察庁資料によると、2015年の日本での殺人事件による死者は363人