小泉今日子&小林聡美主演、考察も怒涛の展開もない…令和ドラマの逆を行く『団地のふたり』誕生秘話
安心して視聴できる『令和版サザエさん』
リアルさを覚えるのはセットも同じだ。団地らしい狭い部屋が再現されているが、八木氏は「団地の部屋は実寸大にしています」とセットへのこだわりを口にする。 「民放ドラマを見ていると、『働き始めの若者がこんな広い部屋のアパートに住めるはずがない』と思うことは少なくありません。そういった違和感が少しでも浮かぶと、登場人物に感情移入しにくくなるため、リアリティを追求しました。ただ、リアルさを保ちつつも、登場人物の“センスの良さ”を感じ取ってもらえるように装飾品にも気を配り、そのおかげで素晴らしいセットが完成しました」 制作陣が細部にまでこだわってドラマ制作に取り組んでいることが伝わるが、それは役者陣も同様だ。 「第5回で、沙耶香が子供をママチャリに乗せて爆走する様子を、住民に頼まれて網戸を交換している最中の野枝と奈津子が目撃するシーンがあります。実は、当初の台本では2人は網戸を持っていなかったのですが、小泉さんと小林さんから『網戸を持っていたほうが良いのでは?』と提案していただき、それを採用しました。野枝と奈津子は第1~2回で他の住民達から網戸交換を依頼されており、第5回でも引き続き網戸交換をしている2人を見て楽しんでくれた人の声がSNSに多く寄せられました。2人の協力的な姿勢にはとても助けられています」 登場人物が歌を口ずさむシーンも印象的だ。ただ、もともと歌をフィーチャーする意図はなく、これも役者陣の“アイデア”が影響しているという。 「第1回で野枝と奈津子が松山千春さんの『季節の中で』を歌うシーンがありましたが、台本では1フレーズのみでした。2人が1コーラスまるごと歌ったため、『面白いから1コーラスそのまま使おう』となりました。第4回でも堺正章さんの『さらば恋人』を2人が歌っていましたが、そこも当初はあまり長く使う予定はなかったです。それでも、最初はユニゾンで歌っていたのが途中からハモリに変わり、あまりに素敵だったため『せっかくなので多くの人に見てほしい』という思いから、シーンを伸ばしました」 歌が印象的な作品になっている要因は、現場の創作を楽しむ気持ちと役者陣の遊び心がもたらせたのかもしれない。 そして、残り数回となった『団地のふたり』をどのように視聴してほしいのかという質問には、「原作者の藤野さんは本作を『令和版サザエさん』と話しており、『サザエさん』のように誰でも安心して視聴できるドラマになっています。1人ではなく誰かと一緒にあれこれ言いながら見てほしいですね。それこそかつてホームドラマを見ていた時のように」と語った。 派手さや急展開のないドラマながら、細やかな演出と役者陣の遊び心により、心に深く残る作品に仕上がっている本作。どんな温かさや驚きが待っているのか、最後まで目が離せない。
望月 悠木