社説:大谷選手MVP 苦境越えつかんだ栄光
打って走って、躍動した一年にふさわしい栄誉だろう。 米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手が、ナショナル・リーグの最優秀選手(MVP)に満票で選ばれた。 二つのリーグをまたぎ、2年連続3回目のMVP受賞で、守備につかない指名打者(DH)専任でプレーした選手の受賞は史上初めてである。大リーグの歴史で、誰もなしえなかった「50本塁打、50盗塁(50―50)」を達成した。 初めて地区優勝してポストシーズンにも進出。7年前、米球界へ渡るときの夢だったワールドシリーズ制覇を果たした。併せて快挙を祝福したい。 54本塁打、130打点で2年連続の本塁打王と初の打点王を獲得。打率3割1分、59盗塁はともにリーグ2位だ。選手として全盛期を迎えているのではないか。 いずれも自己最高の素晴らしい成績だが、この1年は心身ともに大きな変化が重なった。 昨秋、右肘靱帯(じんたい)を損傷し、2度目の修復手術を受けた。6年間所属したエンゼルスを離れ、名門ドジャースへ。世界のスポーツ界でも最高水準の10年7億ドル(1015億円)という契約は、話題を呼んだ。2月には結婚も公表した。 しかし、開幕直後に違法賭博問題で元通訳が突然の解雇となった。信頼していた盟友の背信、捜査当局からの聴取など、動揺は大きかったに違いない。 困難な状況にあっても、ひたむきに前を向いて野球に打ち込む姿は多くの人の心に響いた。 今季の進化は、パワーだけでなくスピードも発揮した点だ。けがで投げられない分、打撃に専念し、走塁技術も磨いた。相手投手を研究し、ダッシュの練習を重ね、50―50達成につなげた。 野球人口の減少を憂える大谷選手は、全国の小学校にグラブを寄贈し、京都、滋賀にも届いた。外に出て体を動かそうというメッセージに子どもらは目を輝かせた。 日本のプロ野球界は、佐々木朗希投手をはじめ有力選手のメジャー挑戦が相次ぐ。一方、今季の12球団の入場者数は史上最多の2600万人を超え、各球団は球場の魅力を高める「ボールパーク化」を進める。大谷効果を生かし、野球人気の底上げを図りたい。 来季は、日本で開幕戦があり、大谷選手の投打「二刀流」の復活が注目される。チームの連覇や最優秀投手の「サイ・ヤング賞」獲得への期待も高い。どこまで進化するのだろうか。