プーチンの誤算、モンゴル経由の中露「パイプライン計画」に遅れ
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が自国領土への軍事侵攻としては1941年以来となるウクライナの越境攻撃に対処している間に、モンゴルはプーチンに別の経済的打撃を与えた。こちらについても、プーチンにとっては寝耳に水だったと思われる。モンゴルは今後4年間の経済計画に、「シベリアの力2」と呼ばれるロシアからモンゴルを経由して中国に天然ガスを送るための新たなパイプラインにかかる費用を一切盛り込まなかったのだ。 ロシアのエネルギー大手ガスプロムは、新しいパイプラインで年間約500億立方メートルの天然ガスを中国に供給できると見積もっている。実現すればロシアが2022年のウクライナ侵攻後に科された制裁で失った欧州への輸出を補うのに役立つだろう。 モンゴルがパイプライン建設を計画に盛り込まなかったことについて、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、新パイプラインのプロジェクトは依然として順調に進んでおり、天然ガス収入の一部をモンゴルの経済発展のために使う可能性を含め、モンゴルのさまざまな役割が議論されていることをほのめかした。 一つはっきりしているのは、パイプライン建設の具体的な内容はまだ準備段階であり、どのように進めるか、あるいは進めるかどうかについての実質的な合意はまだないらしいということだ。 これはプーチンにとって大きな問題だ。各地にいるロシア軍の部隊がウクライナの奇襲で動揺し、ウクライナの爆撃によってクリミアが切り離されたも同然である今、ロシアは遠い将来ではなく今すぐ武器と人員を必要としている。 「シベリアの力」という最初のパイプラインを通じた中国北部への天然ガスの供給は2019年に始まった。同パイプラインは東側を通り、北京を経由して上海まで続いている。南部の最終区間は2025年に開通する予定だ。2本目のパイプラインはモンゴルを通り(首都ウランバートルも経由)、北京の北西部に到達することになっていた。だが、モンゴルがこの計画に参加しなければ、パイプラインは東寄りのルートをとらざるを得ず、中国内陸部のいくつかの重要な都市を迂回することになる。 一部の報道によると、ガスプロムがパイプラインの一部(モンゴルを横断する全ルートの約3分の1)を管理することを中国側は懸念しているという。中国から見れば、これはロシアに支配権を与えすぎることになる。中国は2030年ごろまで新たなパイプラインによる天然ガスを実際に必要としないと考えているため、プロジェクトの推進を急いでいない。これはプーチンにとってはさらに都合が悪い。というのも、今年初めに発表されたデータによると、中国への天然ガス販売はかつて欧州に供給していた分の穴を補っていないからだ。 ロシアの通貨ルーブルの対米ドルレートは低迷しており、わずか1カ月で約8%下落し、昨年夏の水準まで安くなっている。 プーチンは、米国がベトナム戦争で犯した過ちの多くをなぞっているようだ。例えば、国民に正直に伝えることなく戦争を始め、戦時経済への転換を遅らせている。ウクライナ侵攻は本当の戦争ではなく「特別軍事作戦」にすぎないという婉曲的な表現は、プーチンが意図的に国民を混乱させていることの一例だ。 残念ながら、元米大統領リンドン・ジョンソンが遅くに気づいたように、敵による「特別軍事作戦」の鎮圧はうまくいっていると一国の指導者が国民に嘘をつき続けている間、経済の法則は言葉だけでは揺るがない。したがって、ロシアは長期的に1%に満たない成長率しか見込めず、エネルギー販売の収入減により生産活動に必要な資金が不足すると予想される。 全体として、ロシアの未来図はバラ色ではない。南西部クルスク州、そして今回モンゴルから届いたニュースは、プーチンが軍事力でもってウクライナを制圧しようという試みにおいて大きな誤算をしたことを改めて示している。
Daniel Markind