「今の音楽はトラウマレベル」堕落したロックと社会をファット・ホワイト・ファミリーが辛口批判
家族という共同体が秘めた「矛盾」
―「Today You Become Man」の歌詞はあなたのお兄さんが経験した実話ということですが、これは自分や自分たち兄弟と父親との関係を歌った曲とも解釈できます。そして「John Lennon」の歌詞で、ジョン・レノン「Mother」に言及した最後のパートは、やはり自分や自分たち兄弟と母親との関係を歌っているとも受け取れます。先ほどお父さんがあなたの芸術活動に否定的だったという話もありましたが、このアルバムはあなたが両親との関係に言及した側面もある、とするのは穿った見方でしょうか? リアス:俺自身としてはそんな風に考えたことはなかったけど、実に鋭い洞察だね。 そこには必然的にテーマのようなものがあると思う。俺が(「John Lennon」で)ヨーコの声を模倣した際には、文法的に間違いのある英語で話している。そして、「Today You Become Man」で父の声を模倣したときも、同じように話していた。意図してやっているわけじゃないけど、(この2つの曲の間には)ある種の類似性があるね。それに、家族には恐ろしいほど避けて通れない必然性がある。家族というグループには、崩壊、幻滅、ある種狂気じみた執着、そして消滅することのない忠誠心があるんだ。 ―逃れたくても逃れられない繋がりみたいなものでしょうか。 リアス:俺とうちの親父は、感情的にお互いに理解し合えない存在なんだ。文化的に全く異なるし、そこには通じ合えないものがある(リアスの父親はアルジェリア人、母親はイギリス人)。この曲では、当時イングランド北部に住んでいた俺の兄貴が体験した「二重の疎外感」を歌っていて。兄貴はアルジェリア人だから、イングランド北部では部外者なんだ。けど、アルジェリアではイギリス人として見られるから、こっちでも「部外者」になる。それで、(曲の中で歌われている)男子割礼の儀式のようなことが起こるんだ。男子割礼の儀式は、見方によっては児童虐待だ。つまり、ふたつの文化の間には解決不可能な矛盾があり、一種の高尚な奇妙さが忍び寄り始めて、家族の基礎となる瞬間があるんだよ。 ―先ほども父親との関係が創作の原動力のひとつになっているという話がありましたが、やはり家族というテーマはあなたにとって大きいのでしょうか? リアス:俺の創作活動の多くは、家族の根底にある不可解さに折り合いをつけようとする試みなんだ。というのも、自分がプロトタイプのようなもんだから……俺たちが子供時代に育った北アイルランドにもスコットランドにも、半分ベルベル族(アルジェリアを含む北アフリカに古くから住む民族)の血が入ったガキなんていなかった。比較対象が少ないから、迷うことが多かったね。でも、空白を想像力で練った作り話で埋めることができたから、いい面もあったな。 ―SNSの投稿では「Today You Become Man」のことを「最後のスポークンワード(the final word in spoken word)」と紹介していますが、この曲はファット・ホワイト・ファミリーに影響を受けて出てきたサウスロンドンのバンドたちが「ポストパンク調のサウンドに乗せてスポークンワードで歌う」というテンプレートにハマってしまっていることに対する皮肉でもあるのでしょうか? リアス:その要素はかすかにあると思うけど、スポークンワードに関しては、ファット・ホワイツの得意分野じゃないし……あの喋るスタイルを流行らせたのはスリーフォード・モッズだと思う。まあとにかく、今やもう誰も歌わなくなっただろ?(苦笑) ―スポークンワード、多いですよね。 リアス:皆同じことをやり始めて、何度も似たような楽曲を聴くのにウンザリしていたから、ここで茶化したら面白いと思ったんだ。あのスタイルが嫌いって訳じゃない。ルー・リードの「Street Hassle」は大好きだし、あの曲はスポークンワード系の頂点に君臨していると思う。でも、あの手のシーン全体が、ポストパンク風の格好つけたバンドに固執するような視野の狭い感じで、正直退屈なんだ。ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ風の楽曲の後に、ワイヤーみたいなのを演奏したりしてさ。 ―そうですね(笑)。 リアス:インターネットのお陰でいろんなジャンルにアクセスしやすいこの時代に、79年から86年までの8年間に流行った音楽を誰もがこぞって模倣する必要はないだろ? それがクールで洒落てるっていう定義なのかもしれないけど、俺はこれまでクールだったことなんて一度もないよ。格好つけるのは他のメンバーの役割だったけど、奴はもう脱退したから……クールかどうかを気にする必要もなくなって、よかったけど。 ―相当ソウル・アダムチェウスキーへの不満が溜まっていたみたいですね(笑)。サウスロンドンのバンドコミュニティは今でもエキサイティングだと思いますか? それとも、以前とは変わってしまいましたか? リアス:このところ、外出しなくなったからわからないな。最近は自宅で読書したり、風呂でノンビリ過ごすようになったから。どっちにしろ、面白いことなんて何も起きていないと思うな。完全には断言できないけど。 ―「Bullet of Dignity」の歌詞には年齢についての言及があり、「自分が思っていたような反逆者ではないと受け入れること」がテーマだとされています。この曲の文脈で言うと、バンドをはじめた初期と現在とではどのような心境の変化があったと言えますか? リアス:ああ。もしパンデミック後もバンドを続けるとしたら、自分をからかうことも必要だと思って。深刻に考えすぎるのは良くないから。パンデミックが終焉する頃には、生活環境がすべて変わっていた。スクワット暮らしや週5でドラッグをやるような生活とは無縁で、俺の生活はすっかり落ち着いた。でも、自分はこのバンド(のイメージ)に取り残されているような状態だし、周囲の奴らも俺のことをそう受け止めている。そして、一部のバンドメンバーは、そういったくだらないことにまだ固執していたんだ。だから、この曲で皮肉っぽく言及したら、ちょっと面白いんじゃないかと思って。これまではブルジョワの快適さを軽蔑して生きてきたのに、30代半ばから後半にかけて、ブルジョワの快適さを欲する気持ちが生まれたんだよ。 ―『Forgiveness Is Yours』というアルバムタイトルは、ある種の攻撃性やアイロニーを宿していた過去作のタイトルとはややニュアンスが異なるように感じます。この赦しとは具体的に何、誰に対する赦しなのでしょうか? リアス:近い将来に、自分自身に贈る赦しだよ。かつて一緒に仕事をしていた奴らからのクソみたいな戯言に、長い間ずっと我慢してきた自分自身に対して、天空からの謝罪のようなものを顕在化させようとしたんだ。 ―アルバム発表のアナウンスメントで「確かなものは愛だけだ(All that certain is love.)」と書いていましたが、その真意を教えてください。 リアス:まあ、必然性があるというか、恐ろしいほどに、これが真実だと思う。どういったコンテクストで書いたか覚えていないけど、(愛から)逃れられないという感覚の重さ。そして、(愛のせいで)不快な場所に置かれる羽目にもなる。もしかして、きちんと誰かを愛する方法もわからないのかもしれない。あるいは、きちんと誰かを愛すことを学ぶ必要があるのかもしれない。 ―あなたにとっての愛とは必ずしもポジティブな意味ではなく、それこそ家族関係と同様に、非常に厄介なものだと。 リアス:まあでも、こういったことは、誰もが体験する旅路だろ? それが早い段階でわかる奴もいれば、一生かけてやっと気づく奴もいる。時には難しく、確かなことは、「愛」と「死」だろうね。