「脆弱性が…」サッカー日本代表の問題を指摘するスペイン人指導者。「守備方法を統一できていない」【アジアカップ2023】
AFCアジアカップカタール2023に出場しているサッカー日本代表は、グループステージを2勝1敗という成績で終え、グループD・2位で決勝トーナメントに進んでいる。UEFA PROライセンスを持つアレックス・ラレアに、ここまでの日本代表の戦いから見えた弱点や改善点を指摘してもらった。(取材・文:川原宏樹)
●ディフェンスラインの脆弱性 日本代表は5回目の優勝を目指し、カタールで開催されているAFCアジアカップに参戦している。グループステージではベトナム代表、イラク代表、インドネシア代表と対戦し、2勝1敗の成績でグループ2位となり決勝トーナメント進出を決めた。次ステージに勝ち進んだとはいえ8得点5失点と本来のポテンシャルは影を潜めてしまい、優勝に向けて危険信号が点灯している。 UEFA PROライセンスを持つアレックス・ラレアは日本代表のこのような状況をどう分析しているのだろうか。 グループリーグを2位の成績で勝ち上がった日本代表だが、3試合で5失点と守備が懸念される状況。そこには予期せぬ状況に直面したメンタル面が影響しているのではないかとアレックスは指摘する。 「この3試合では日本のディフェンスラインにおける脆弱性が目立った結果になりました。自分たちのゴール近くにボールを運ばれると、危険な状況に陥ってしまったという感覚で選手らはプレーしていたのではないでしょうか。ベトナム戦では前半で2失点して面食らったようでしたし、イラク戦では早い時間帯に先制されてしまいました。そのことでいいパフォーマンスを発揮しようというメンタルではなくなってしまったように感じました。チーム全体がボールを失う恐怖に支配されたようなパフォーマンスでした」 そのような精神状態は守備面だけでなく、攻撃面にも大きく影響していたとアレックスは続けた。 ●第3戦では何が改善されたのか? 「ボールを失う恐怖心が強くなるなかでのプレーは、これまでのようなダイナミックなプレーや難易度の高いプレーの選択といった状況下で積極性を失っていきました。そういった積極性の欠如によって、決定機をつくり出すことに苦しんでいるように見えました」 積極性の欠如によって苦戦を強いられた日本代表だが、3戦目となったインドネシア戦では改善も見られたという。 「昨年までの親善試合では前線でポジションチェンジを積極的に行い、いい効果をもたらしていました。しかし、ベトナム戦やイラク戦では積極性の欠如により効果的なポジションチェンジといったプレーは滞っていました。ただ、インドネシア戦においては攻撃面では改善されて、そういった積極性を取り戻して効果的なポジションチェンジが見られるようになりました。特に、毎熊晟矢のダイナミズムにあふれたプレーは、チームにポジティブな影響を与えていたように思います」 ディフェンスラインの脆弱性、またその影響による積極性の欠如を不調の原因に挙げたアレックスは、守備において修正点は大きく2つあると主張。それぞれの試合で見られた事象を踏まえて具体的に説明した。 「イラク戦でもそうでしたが、特にベトナム戦ではチーム全体として守備時に先を読んだ予測に基づくプレーが遅かったように感じます。ボールを失った直後のネガティブトランジションにおいて、相手のカウンターを警戒して防ぐことは当然なのですが、そのときにどうすべきかというプレー判断に遅れがありました。以前は素早く対応できていたことなのですが、その遅れが生じてしまったために結果としてファウルせざるを得ない状況に追い込まれて、フリーキックからの失点を招いてしまいました」 このような先読みの遅さに加えて、ロングボールの対応についても言及した。 ●日本代表がイラク代表のロングボールに苦しんだ理由 「イラクはロングボールによる組み立てをしっかりと準備してきていたのでしょう。ボールを蹴り込むキッカーが正確なボールを蹴っていたことからも、その準備に対する労力を感じさせました。このような相手の狙いに対して、ある程度思いどおりにプレーさせてしまったがために苦しい試合になったのは明白です」 今後の相手も日本対策として同様にロングボールでの組み立てを狙ってくる可能性があるなか、アレックスには気になるプレーがあったという。 「イラク戦にかぎっては大半がリスタートからのロングボールで数は少なかったのですが、ディフェンスラインの裏へ蹴り込む選手がノープレッシャーだった場面がありました。チームとして前からプレッシングにいく時間帯と引いてブロックをつくる時間帯がありますが、どの状況や時間帯でどうするのかというチームの意思決定に迷いが生じてしまい、ボールホルダーへのプレッシャーが甘くなってしまう時間帯ができたのではないかと考えています。そういったコミュニケーション不足によって守備方法を統一できていない隙を突かれて、前線へつけるパスを自由に許してしまっている印象でした」 加えて、ロングボールの処理自体にも問題があったことを指摘している。 「イラク戦ではロングボールへの弱さも露呈しました。単純に、空中戦の競り合いだけの話ではありません。イラク戦では相手FW1人に対して日本はセンターバックの2人が見ている状態でしたが、それでもそのFWにボールが収まるシチュエーションが何度か起こっていました。局面でいえば、数的優位の状況にもかかわらず相手ボールになることが問題です。加えて、セカンドボールの対応にも問題がありました。選手間の距離が遠かったのですが、特に遠藤航と守田英正の2人とディフェンスラインの距離が離れていたために、ディフェンスラインでのデュエルによってこぼれたセカンドボールを回収できず、出足の早い相手のボールとなっていました」 ●「いい選手がいる」≠「90分いいプレーができる」 グループステージでの日本代表は、このように主に守備面での問題が目立ったことを指摘したアレックスだが、これまでできていたことができなかった要因を考察した。 「以前に日本対策の話をしたときに、日本のスピードとリズムでプレーさせないようにして感覚を狂わせることがキーポイントになるといったような指摘をしました。日本には質の高い選手がそろっていることは間違いないでしょう。ですが、いい選手がいるという事実は90分間のいいプレーを保障するわけではありません。それよりも選手同士がどのような感覚でプレーするかが重要で、それはパフォーマンスに直結し、プレーの出来を大きく左右させます。前半で逆転を許したことや早い時間帯での失点ということが影響して、自分たちが気持ちよくプレーできる感覚が乱されてしまったのではないでしょうか」 このような日本対策を実行するのは「アジアのチームにとっては簡単なことかもしれません」と、アレックスは日本代表が置かれている状況を説明した。 「日本と対戦するアジアのチームのほとんどは、試合開始15分間で2点を奪われてしまうかもしれないと覚悟を決めて臨んできます。対策方法はさまざまあると思いますが、そのような覚悟を持っているために割り切って思いきったプレーをしてきます。そういった感覚がポジティブに働いた結果、うまく対策を実行できたのでしょう。だから、同じ対策や戦術を用いたとしても、次はその覚悟や感覚が逆に作用する可能性もあり、結果として日本が大量得点で勝ってしまうという結果も十分にあり得ることだと思います。だから、日本に勝ったイラクは戦術的にも優れていたのですが、メンタル的にもいい状態をコントロールできており、素晴らしい準備ができていたといえるのではないでしょうか」 ここまでグループステージで露呈した日本の問題点を指摘してきたアレックスは、ノックアウトステージに向けた「修正点は1つしかない」と主張している。次回はアレックスが日本代表の修正点について明かす。 (取材・文:川原宏樹)
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