下痢は自制心で止められるか…サッカー界とギャンブル依存症の問題
依存症への罰則は重すぎるのか
アーセナルなどで活躍した元イングランド代表MFポール・マーソン氏(56歳)は「依存症に10カ月間も出場停止を与えるのはおかしい」と主張する。マーソン氏は自身も現役時代からいろいろな依存症に苦しんできた。アーセナル時代にアルコール、コカイン、ギャンブルの依存症を告白し、3カ月間の更生プログラムを受けて復帰するも、何年後かに再びギャンブル依存症のリハビリを受けるなど、何度も依存症と戦ってきた。 1997年にアーセナルから当時2部のミドルズブラに移籍した時は、アーセナルからも契約延長オファーを提示されるも、例え2部リーグのチームだろうが、より高い給料を用意してくれたミドルズブラに魅かれた。「デニス・ベルカンプよりも高い給料」と告げられたマーソン氏は「ギャンブルに取りつかれていた自分はお金を断ることができなかった」と認めている。 そんな苦しみを味わってきたマーソン氏だからこそ、罰則が重すぎると感じるのだ。「皆さんはギャンブル依存症を理解する気持ちがない」と『BBC』のポッドキャスト番組で訴えた。 「ユニフォームに(賭博の)広告を入れながら、依存症の選手に10カ月間の処分を与えるなんてどうかしている。彼らは助けを必要としており、10カ月間の処分は助けにはならない。依存症を軽く見過ぎなんだ。皆さんは『自制心を持て』と言うかもしれない。それならば、私は『下痢をした時も自制心で治せ』と言いたいね」
アルコールよりもプレーへの影響は大きい
サッカー界のギャンブル依存症は深刻な問題だという。元アーセナルのDFトニー・アダムス氏が設立した『スポーティング・チャンス』というアスリート用のクリニックでは、以前はアルコール依存症患者が7割だったが、今はギャンブル依存症が7割だという。アルコール依存症と違い、ギャンブル依存症は周りの人が気づきづらいという問題があるそうだ。 「選手が朝4時まで飲み歩いていれば、翌日の練習で気づける。しかし、賭博で20万ポンド(約3800万円)も失っている選手のことを周りは気づけない。手遅れるになるまでね。クラブは、選手がギャンブルをしていても『プレーに影響はない』と考えるだろう。でもアルコールよりも影響を及ぼすんだ」 プレミアリーグは昨年、2026-27シーズンの開幕からギャンブル系企業によるユニフォームの胸スポンサーを禁止すると発表した。だが、今季のプレミアリーグでは20クラブのうち8クラブも胸スポンサーにギャンブル系企業の名前が入っている。英紙『The Guardian』によると、今季プレミアリーグの開幕節では1万1000回もギャンブル関連のメッセージを目にする機会があったという。TV中継された6試合では、胸スポンサーや広告看板やCMなど「6966回」。さらにSNSでの広告が「1902回」など、現状ではサッカーを見ようとするとギャンブルを宣伝するメッセージは避けられないのだ。 元ニューカッスルのFWマイケル・チョプラもギャンブル依存症を告白しており、自分の所属するチームの胸スポンサーがギャンブル企業だった時には「試合後、控え室に戻って椅子に座っていても、チームメイトを見るだけで(ギャンブルの)誘惑があった」と明かしている。 どうやら賭博はサッカー界においても根深い問題のようで、今後さらなる対策が必要になってくるだろう。