高畑充希、『光る君へ』定子として生き抜いて 「穏やかな日々の中に幸せを見つけられた」
高畑充希が惹かれた定子の“強さ”
――塩野瑛久さんが演じた一条天皇とのシーンで思い出に残っていることはありますか? 高畑:塩野さんと以前共演させていただいた時は一緒のシーンがほとんどなかったんです。一条天皇と定子の関係性を考えると、はじめましてではなく久々の再会としてご一緒できたことは嬉しかったです。塩野さんもウイカちゃんのように「定子さんが好きです」と言葉で表現してくださる方だったので、それに対しても救われた感覚はありました。誰かに憧れられたり、愛されたりする役は、自分で大丈夫なのかとどこか不安になるんですよね。2人がその不安要素を減らしてくれていました。一条天皇とのシーンは総じて複雑で、かわいい弟分から男性として見るようになり、愛し合うところから徐々にこの人に見放されたら自分と子供の行く場所がなくなるという保身的な意味も加わってきてしまいます。一条天皇は一途に愛を向けてくれる人で、そこの温度差からも男性と女性の考え方の違いが見えて、後半からは真綿で首を絞められるような苦しい定子の混沌とした感情がありましたが、塩野さんが一貫して愛情を持ってお芝居してくださったので不安な気持ちは一切なかったです。塩野さんは平安の衣装が似合うんですよ。顔が彫刻みたいに綺麗だから、同じ画面に並びたくないというのは思っていましたね(笑)。 ――先ほど触れられていました三浦翔平さんが演じる伊周という人物についてはどのように見ていましたか? 高畑:伊周に対しては、この人さえしっかりしていればこんなことにはならなかったのにと思っていたんですけど、あれほど美しい三浦さんがどこまでも不恰好に哀れな姿を演じていて、それを見ていると怒りというよりかは涙が出てくるんです。台本を読んでいる時には湧き出てこなかった感情で、あそこまで振り切っていると一周回って愛せてしまうんです。罵倒されるハードなシーンも三浦さんとは多かったですが、毎カット全力で演じてくださるので、私も同じテンションで感情を持っていくことができましたし、私は三浦さんの演じる伊周が素敵だなと思っていました。定子に感情移入してくださってる方からしたら、「何してんだよ」という感じだと思いますが(笑)。 ――高畑さんが特に演じていて難しかったと思うシーンは? 高畑:悩んだのは定子が出家する前に政治的な考えを持ち始めるくだりです。自分の家族を守らなければいけない立場なので、兄の伊周や父である道隆(井浦新)が悪い方にいってしまわないように力を使いたいというのは定子の中では芯の通ったことなんですけど、そのことに夢中になると一条天皇への愛情も嘘に見えるという、その塩梅が難しくて。家族のことも考えなければいけないですし、一条天皇との愛も嘘ではなく、お互いが愛し合っていたということにしたかったんです。出家してしまってからはまた話の論点が変わっていきますけど、演じるうえで監督にも相談していました。一条天皇への振る舞いがあざとすぎないかの確認だったり、その辺りは針の穴に糸を通すような芝居に思えました。一条天皇との関係性が政治のために仲良くしてるという印象を与えてしまうとそこから先が全て変わってくるという恐怖があったので、その辺りが自分の中では鬼門でした。 ――定子が自ら髪を切り、出家をするシーンもありました。 高畑:出家のシーンは台本で読むと「切っちゃった!」という驚きで終わる印象が強くありました。視聴者のみなさんも感情が高まったままの幕切れにしたいと思っていたんですけど、現代の感覚だと髪を切るということはそれほど大事ではないですが、当時は出家することはみんなの前で自殺するぐらいの感覚だったそうなんです。定子が自分で髪を切ったのは史実にもあることで、視聴者のみなさんが「髪を切っただけなのに、どうしたの……?」みたいな終わり方にはならないようにしたいと思っていました。結果的に、そこのシーンに至るまでには伊周が駄々をこねたり、母の貴子(板谷由夏)が号泣をしたりして、私が髪を切るシーンというよりかは家族みんなで頑張ったという感じで、緊張感のある中での撮影でしたが、現場は楽しかったですね。 ――高畑さんにとって定子という役はどのような経験になりましたか? 高畑:『枕草子』というこれまで学んできたものと自分の体感が一致したことが新鮮でした。この歳になって改めて日本文化の美しさを知ることができましたし、こういった作品に出られたのは幸せなことです。定子は大変な人生を生きた人ですけど、それは時代や彼女の位が高すぎたことや本人がいろいろと理解できてしまう人だったからなのかなと思います。なので、演じている中で、定子と自分を重ね合わせる瞬間はなく、私が今まで関わることがなかった人物をこの現代で素敵に実体化したいという思いが強くありました。定子と同じ目線でというよりかは少し離れたところから定子という人を見ていた感覚です。 ――出演者発表時には「ドラマの中で長い期間彼女を演じさせていただけることで、私自身も明るい方向へと引き上げてもらえるような、そんな予感がしています」というコメントもされていました。 高畑:思ったより明るいシーンが少なかったのもありますが、つらいシーンばかりを撮っていた時は、吉高(由里子)さんに「大丈夫? 体調でも悪いの?」と言われて、それほど精神的に持っていかれていたんだと思います。演じ終わった今は定子さんをずっと見つめていたような感覚が残っています。 ――吉高由里子さんとは直接の共演シーンは少なかったかもしれませんが、主演を務める彼女をどのように見ていましたか? 高畑:吉高さんは役者としての先輩であり、友人でもあるような関係性で、本人の明るい人柄もあって、周りを楽にしてくれる人という印象があります。一緒にいるとふざけてしまうところもあって、それがハードな現場の中では息抜きになることもありますし、寛大な人なのでそこに救ってもらうことが多かったですね。共演はワンシーンだけだったのですが、役としての会話はほぼなく、お互い真面目に話しているのが笑えてきちゃうぐらいに、私も由里ちゃんもちゃんとお仕事をしているという不思議な感覚でした。 ――高畑さんは定子の人生が幸せだったと思いますか? 高畑:難しいですね。一般的な幸せを知らなかったとしたら幸せな人生だと思っていてもいいと思うんです。定子の場合、幼少期が幸せで、そこから家族が離れていくのでつらい印象があります。特に後半は幸せだったとは言い切れないと思うんですけど、私が定子の好きなところはどれだけどん底に落ちた状態でも、幸せを見つけられる力がある人で、その強さが素敵だと思うんです。少納言が書いてくれた文面に幸せを見出したり、少納言と過ごすなんでもない時間だったり、最終的には穏やかな日々の中に幸せを見つけられたのかなと思っています。
渡辺彰浩