<日々新た>龍谷大平安・川口コーチの挑戦/上 秋季府大会、屈辱的大敗の夜 チーム変えた一言 /京都
無残な敗戦の後、学校に戻って始まったミーティングは、1時間半以上に及んだ。 2022年10月1日の秋季府大会準決勝、龍谷大平安は京都国際に4―14で屈辱的な八回コールド負けを喫した。それまで3試合に登板して2完封、無失点だった先発の桑江駿成(2年)が、この日は七回途中まで5失点。後を継いだ左右の4投手も、1回3分の1で9点を失った。 和歌山県である近畿大会への出場を懸けた3位決定戦は翌日。初めての連投になっても、現状で先発は桑江しかいないのは暗黙の了解事項だった。 ミーティングは、主力のバッテリー陣7~8人に、コーチの川口知哉(43)を交えて始まった。3位決定戦に向けて、チームをどう立て直すのか、どうすれば相手打線を抑えられるのか。半年前に就任したばかりの新任コーチは、おもむろに口を開いた。 「配球や」 府大会の初戦から準決勝までの5試合、先発捕手は藤原一輝(1年)だった。入学後に投手から捕手に転向したばかりだったが、本塁打を放つなど打率4割と好調。ただ、右横手で球の出所がわかりにくい桑江のリードは「困ったら(変化の大きい)スライダーで抑えられる」と考え、単調だった。いずれ行き詰まるとわかっていたが、結果が出ているうちは川口はアドバイスを控えた。 しかし、複数の甲子園経験者を擁する京都国際打線にはそのスライダーを狙い打ちされ、バッテリーは対応しきれなかった。リードに限れば、相手の狙いを読める松浦玄士(2年)の方が、多彩な変化球を持つ桑江の持ち味を引き出せるのではないか。結論は、原田英彦監督(62)の考えと一致した。 ◇ 鳥羽との3位決定戦は、直球とスライダーに加えて、落ちるシンカー、右打者の内角を突くシュートも駆使した桑江と、左腕・伊礼徳風(2年)のリレーで延長戦の末に制した。近畿大会に向けて組まれた練習試合では、後にセンバツ出場を決める鳥取城北を1―0で1安打完封。緩急、高低、左右を使う配球に磨きをかけた桑江―松浦のバッテリーは自信を深めた。 しかし川口は練習試合の後、八回2死から喫した唯一の安打を問題視した。「フルカウントから勝負して四球なら仕方ないが、安易にストライクを取りに行き、完全試合も無安打無得点も逃した」と厳しく指摘。選手たちに、一球の重さをより強く意識してほしかった。 近畿大会で桑江と松浦の寮の同部屋バッテリーは成熟度を増し、最速131キロでも絶対に逃げの投球をしなかった。2試合連続完封の後、5人全員が最速140キロ超の大阪桐蔭投手陣と互角に渡り合い、チームは堂々とセンバツへの切符を手にすることになる。 自らが甲子園で躍動し、春夏計9試合を戦ってから四半世紀。川口は、はた目には回り道にも見えた長い時間が、すべて貴重な経験となったことに確信を持った。 ◇ 龍谷大平安の4年ぶりの甲子園出場に大きな役割を果たした新任コーチ。かつてのエースが歩んだ紆余(うよ)曲折の道のりを見つめる。(敬称略)【矢倉健次】 〔京都版〕