楽天ドラフト1位 松井裕樹がマー君から学びたいモノ
1巡目指名で最多の5球団の競合
5分という時間が、やけに長く感じられた。高校ナンバーワン左腕、松井裕樹(桐光学園・神奈川県)は心臓の鼓動が高鳴ってくるのを抑え切れなかった。 午後5時15分。いの一番で指名した北海道日本ハムファイターズに横浜DeNAベイスターズ、福岡ソフトバンクホークス、中日ドラゴンズ、そして東北楽天ゴールデンイーグルスが続いた。 [写真記事]松井に勝った横浜高校が甲子園に出れた理由 1巡目指名で最多となる5球団の競合。最後にくじを引いた楽天の立花陽三球団社長が右手でガッツポーズを作った同5時20分までの光景を、神奈川・川崎市内の校舎内の別室で両親、野球部の野呂雅之監督らとともに見守った松井は、万感の思いを胸に募らせていた。 「幼いころからプロ野球選手になりたいと思い、夢に向かって努力してきました。まだ実感はありませんけど、プロに挑戦することが決まって少しホッとしています」
マー君は目標としているピッチャー
前夜はあまり寝つけず、この日は午後3時すぎまで校内模試を受けていた学生服姿の松井は、やや緊張した面持ちで、視聴覚室に設けられた臨時会見室に入ってきた。 ひな壇でもどことなくぎこちなかった表情が少し和らいだのは、楽天が誇るスーパーエース、田中将大の存在を聞かれたときだった。 「目標とさせていただいているピッチャー。自分は勝てるピッチャーを目指しているので、学べるものはたくさんあるし、いろいろと吸収して、ゆくゆくは超えていきたい」 レギュラーシーズンで24勝1セーブ。千葉ロッテマリーンズとのクライマックスシリーズ第2ステージ初戦でも完封勝利を飾るなど、日本プロ野球史上で未来永劫に語り継がれる大活躍を演じてきたマー君には、ピッチャーを志す野球少年の誰もが憧れるだろう。
猛者の集うプロで戦うための課題
決して記録面だけに魅せられているわけではない。松井は、冷静にマー君がなぜ負けないかを分析して、対面がかなえば、ぜひとも聞いてみたいことがあるという。 「力を入れる部分が分かっているところがすごい。マウンド上でどんなことを考えているのか、いの一番にそれを聞いてみたい」 報道陣から「ギアチェンジのことか」とあらためて問われると、松井は笑顔でうなづいた。プロで勝てる投手になるために。松井はいま現在の「課題」をしっかりと把握していた。 今年に入って右打者用のチェンジアップを解禁したが、松井のスタイルは力投型。最速149kmのストレートにせよ、打者の視界から消えると畏怖されたスライダーにしても、常に思い切り腕を振り、渾身の力を込めて投げ込むことを信条としてきた。 昨夏の甲子園で記録した1試合22奪三振の快投乱麻は、今もなお鮮明な記憶として残っているが、三振を追い求めれば必然的に球数が増える。力の差がある高校野球では通用したかもしれないが、猛者たちが集うプロの世界はそんなに甘くはない。