「ざる法」改正、将来禍根も 裏金事件の闇残し ぐらつく政権、続く難路〔深層探訪〕
自民党が提出した政治資金規正法改正案が6日、衆院を通過した。「自公維」の枠組みにより、岸田文雄首相が公約した今国会成立にめどがついたが、「ざる法」と呼ばれる規正法の抜け穴がふさがったとは言えない。派閥裏金事件の解明も進まず、将来に禍根を残す可能性は否定できない。参院審議でも野党は追及の手を緩めない見通しで、弱体化が顕著な政権は難路が続く。 【写真】衆院本会議を終え、自民党の茂木敏充幹事長と握手する岸田文雄首相 ◇にじみ出る焦り 「私たちは知っている」。6日の衆院本会議で自民案の賛成討論に立った同党の山下貴司元法相はこう切り出すと、政治資金パーティーの参加者として支援者や企業関係者に加えて労働組合を挙げ、「政治活動はこのような方々に支えられている」と立憲民主党などに当てつけるかのように力説。「(自民案は)透明性を確保する内容だ」と胸を張った。 だが、その言葉と裏腹に自民案には疑念の目が注がれる。5日の衆院政治改革特別委員会では、政策活動費の「10年後の領収書公開」など付則に規定された事項の具体化をただす野党に、首相は「制度の詳細は今後詰められる」と述べるにとどまり、「黒塗り」が行われる可能性さえ示唆した。 議員本人の責任を厳格化する「連座制」導入は中途半端に終わり、企業・団体献金の禁止は見送られた。 特別委の審議時間は限られ、裏金事件の解明は手付かずで進んだ。だが、首相は6日、今回の改正案について「(再発防止の点でも)明確な方向性を明らかにした」と記者団に言明した。 批判がやまぬ状況に与党内には焦りの色も広がる。公明党の中川康洋氏は6日の本会議で、立民がパーティー全面禁止を主張しながら一部幹部がパーティーを予定していたことに触れ、「そんな政党に日本の未来を任せるわけにいかない」と訴えた。 「法案は『ざる法』。本会議で他党を非難する場面なのか。恥を知れと言いたい」。国民民主党の玉木雄一郎代表は採決の後、記者団の取材に語気を強めた。 ◇定まらぬ一手 裏金事件の対応や規正法改正には「後手」批判がつきまとい、4月の衆院3補欠選挙と5月の静岡県知事選で自民は一つも勝てなかった。党内では「岸田首相が『党の顔』では戦えない」との空気が拡大。首相はこれまで模索してきた今国会中の衆院解散の見送りに傾いた。 「伝家の宝刀」とされる解散権を封じられつつある中、再選が懸かる秋の党総裁選に向けた次の一手として語られているのが、国会閉幕後の内閣改造・党役員人事だ。「ポスト岸田」の有力候補に挙がる石破茂元幹事長や首相と距離を置く菅義偉前首相を取り込み、挙党態勢を敷いた上で総裁選に臨むシナリオだ。 ただ、閣僚経験者は「打診しても辞退が相次げば政権が持たない」と指摘し、現状ではリスクが大きいとの認識を示す。6日、自民若手・中堅が集まったある会合では、首相がトップダウンで公明と維新の主張を受け入れた修正協議について「こんなプロセスでいいのか」と批判する声が続出した。「進むも地獄、引くも地獄だ」。自民幹部はこう語る。 規正法改正案に関する論戦は7日に舞台を参院に移す。立民の安住淳国対委員長は6日の党会合で、23日の会期末まで結束して対応するよう呼び掛けるとともに、政治改革を巡る議論について「国会が終わっても延々続く」と述べ、次期衆院選をにらんで追及を続ける考えを示した。