市場は変化したのに…「割引で成長を釣る」というeコマースの錯覚=韓国
ティモン・ウィメプ問題|プラットフォーム産業の根本的な問題点とは何か
「私たちは20年ほど赤字を出すでしょう」 グローバルeコマース(EC、電子商取引)プラットフォーム「アマゾン」の創業当時を描いた映画「アマゾン:ザ・ビギニング」で、創業者ジェフ・ベゾスは投資家たちにこのように述べる。プラットフォーム企業の成長戦略を象徴的に表す発言だ。消費者が受ける恩恵を掲げて参加者を引き込み、市場を掌握してより多くの収益を得るまでは、「長期赤字経営」をしていくということだ。 中小商工人の被害額が1兆ウォン(約1050億円)に迫る韓国のティメプ(ティモン・ウィメプ)問題は、このようなプラットフォーム戦略がむしろ実物経済を襲う爆弾へと急変しうるということを明確に示した事例だ。高金利、内需の低迷、競争の深化などでプラットフォーム企業の「意図された赤字」が大規模な債務不履行などへとつながることが強く懸念されるだけに、対策が必要だと指摘されている。 6日の業界の話によると、2021年のマージポイント問題からはじまって、昨年初めのボゴプレイやハウスアプリ、今年のパボサランやティメプ問題に至るまで、プラットフォーム企業による販売代金の未精算など、大小の被害例が毎年絶えない。被害推定額は少ない場合でも数十億ウォン、多いと数千億ウォンとまちまちだ。 しかし、問題の原因と展開過程は似ている。消費者のための大々的な割引策にかかったコストをプラットフォーム企業が負担しているうちに流動性危機に陥り、借金を返済できずに廃業するという流れだ。例えばマージホールディングスは、加盟店で現金のように使える商品券を20%割引で販売しているうちに、自転車操業が限界に達し、購入者と提携会社に1000億ウォン規模の被害を出した。サムスン電子の社内ベンチャーとして始まり、会員数が100万人を超えたボゴプレイも、巨額の割引イベントのコストに耐えられず、昨年1月には出店業者に対する販売代金清算が300億ウォン以上滞った。 これまでプラットフォーム企業のこのような攻撃的な外形成長戦略は、低価格商品をエサにしてより多くの利用者を引き込み、プラットフォームの利用と支配力を高める「ネットワーク効果」を狙った「革新経営」だと評価されてきた。ひとまず計画された赤字を基礎として消費者を引き込んでしまえば、販売者と商品構成が多様になり、そのことがさらに多くの消費者を引き込むという好循環構造を形成するはずだ、というのだ。 問題は、既存のアマゾン、クーパンなどの主要ECプラットフォームが急成長した時期とは、市場環境が明らかに異なるということだ。高金利などで投資を誘致する環境が悪化しているうえ、消費が低迷しているせいでオンライン流通市場の成長も停滞しているからだ。統計庁の資料によると、今年第1四半期(1~3月)の韓国のオンラインショッピング取引額は59兆7000億ウォンで、昨年第4四半期(61兆7000億ウォン)に比べて3.2%減少している。アリやテムなどの超低価格を武器にした中国企業の進出で、ただでさえ競争が激化しているのに、肝心の市場のパイは縮小しているわけだ。 このような理由から、プラットフォームの従来の成長の公式がもはや通じなくなり、慢性的な赤字状態にあるプラットフォーム企業が廃業する例が増え続けるとの懸念も強い。特に懸念されるのは、取引規模の拡大を最優先とするプラットフォームの特性上、倒産や廃業にともなう連鎖的な被害も大きくならざるをえないことだ。割引などで発生した損失がそのままプラットフォームに出店している中小企業や自営業者などの販売者に転嫁され、中小商工人の連鎖倒産、雇用の減少など、実物経済に衝撃を与えうるということだ。匿名のある私募ファンド運用会社の代表は、「技術力や収益性などの割には膨らみ過ぎている『プラットフォーム至上主義』の限界と問題点が、今回のティメプ問題を機として、はっきりとあらわになっている」と指摘した。 政府に早急な政策の変更を求める声もあがっている。プラットフォーム企業の赤字経営を消費者のための「革新」だと考え、少数の支配的な大規模事業者の独占のみを規制してきた現行制度は穴が大きい、との理由からだ。建国大学のクォン・ナムフン教授(経済学科)は、「プラットフォーム企業のネットワーク効果と外形成長ばかりに依存する戦略は通用しなくなった」とし、「政策当局が産業と市場をきちんと理解し、対処していたなら、ティメプ問題の被害も防げただろう」と批判した。 パク・チョンオ、ユ・ソンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )