ヨーロッパで止まない「反EU」の風 極右候補に僅差の勝利、既存政治にノー
難民への不安を吸収「トランプ現象」再び
オーストリアで自由党がここまで台頭した背景には、国内経済の停滞と難民の扱いに対する有権者の不満が蓄積し(オーストリアでは今年だけで約3万人が難民申請を行っている)、その流れを自由党のホーファー党首がポピュリズムを使いながら上手く利用したように思われる。 ドイツ・ミュンヘン在住の雑誌編集者アンドレ・ローレンツさんは、ドイツがこれまでも多くの移民・難民を受け入れてきた背景を踏まえた上で、過去に前例がない大量の移民・難民流入がドイツ社会や周辺諸国にどのような影響を与えるのかは「未知数」と語る。ローレンツさんと彼の妻は昨年9月、鉄道でミュンヘンに到着した難民を歓迎するために中央駅を訪れ、現在も難民の支援活動に時折参加している。 ローレンツさんは難民の受け入れには賛成するものの、難民と地元社会が上手く共生できるかという点ではクリアしなければいけない点がいくつもあると冷静に分析している。 「私の義理の父は政治的にはリベラルで、オーストリアの小さな町で市長を長年やってきたが、小さな町に突然多くのイスラム教徒が住みつく事によって、カトリック的価値観によって作られたコミュニティの芯となる部分が大きく変わってしまうのではと危惧している。こういった見方が存在するのも事実として認識すべきだろう」
この数年、難民が大挙してオーストリアにやってきて、難民申請を経て定住するケースは後を絶たない。社会の文化的なバランスが変化することを危惧する市民もいるが、それ以上に大きいのは景気の停滞が続くオーストリアでは難民よりも自国民の経済的な保護をきちんとすべきだという声が大きいことだ。20年前となる1996年1月のオーストリアの失業率は4.7パーセントで、隣国ドイツの失業率は8.5パーセントであった。それから20年の間に両国の景気は大きく変化。2013年に両国の失業率は逆転し、今年7月のドイツの失業率は4.2パーセント、オーストリアの失業率が6.2パーセントとなった。 「ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)を前にして、移民や難民、イスラム教徒らに対して本音と建て前を使い分けなくてはいけない。今の社会に対する白人有権者のフラストレーションが出たのでは」。ドナルド・トランプ氏が米大統領選で勝利した際、このような分析も欧米のメディアでは報じられた。これまでもヨーロッパ各国を中心に一定数の移民を受け入れてきた歴史を持つオーストリアだが、難民として大挙してやってくるイスラム教徒らに対して不満を抱える有権者にとっては、自由党のホーファー党首の主張は共鳴できるものだったのかもしれない。