スマートウォッチの“予言”?「シチズン100年の歴史」を知る人ぞ知る名建築で紐解く
スマートウォッチ顔負けの機能ぶり
機械式時計からクオーツ時計へと移行した1970年台を経て、1980年代には、現在のスマートウォッチを予感させる多機能時計がブームとなった。 特徴的なのは、まるでSF映画の小道具のようなエンターテイメント性だ。温度計・ボイスレコーダー、オーディオプレイヤーなど、要素がてんこ盛りの欲張りな時計が、各社から発売された。 現在では、そのノスタルジーでレトロフューチャーな見た目から、コレクションするマニアも多い。 30年以上のロングセラーを誇る「ANA DIGI TEMP」もその一つ。アナログとデジタルの時間表示に、温度センサーを搭載しており、写真では見た目のインパクトに目が行くだろう。 だが、実物を目の前にすると、細縁のベゼルと薄型のデザイン、表面のメカニックな印象とは反対に、スマートな印象にまとめ上げていることが分かる。 FM/AM放送を受信できる、1984年発表の「SOUNDWATCH」。左下のイヤホンジャックにイヤホンを挿せば、ラジが聴ける。周波数を合わせるつまみが遊び心をくすぐる。 ラジオを聴くための腕時計と言わんばかりの見た目で、デジタル時計の表示は右下にチラリと覗く程度。一方、20度の傾斜をつけることで時間を見やすくする工夫も見られる。 2006年には、Bluetooth搭載の携帯電話連動型ウォッチ「Caliber.W700」も登場した。着信やメール通知を光と振動で知らせるという点は、まさにスマートウォッチを予言するかのようだ。
小型化から“見えない”ところまで来た技術革新
文字板を貫くのは、コイルが巻かれた円筒状の受信アンテナ。なんともアイコニックな形の「Radio-Controlled」は、1993年に世界初の多局受信型時計として発表された。 電波時計のうち、世界各地の複数拠点から電波を受信して時間を調整するのが多局受信型時計だ。 正確な時間を刻む時計開発に情熱を注いだシチズンだったが、最後までアンテナの小型化に苦戦していたという。そこで逆転の発想から生まれたのが、アンテナが露出する大胆なデザインだったのだ。 その後、技術者たちは15年かけて「いかにコイルを小さく巻くことができるか」という命題に取り組み、最終的に受信アンテナは1円玉サイズの時計にも収まる大きさまで進化した。 電波時計と並ぶシチズンを代表する技術が光発電エコ・ドライブだ。1976年にその前身となる世界初のアナログ式太陽電池時計「CRYSTRON SOLAR CELL」を開発し、1995年にはその技術をエコ・ドライブと名付けた。 当時は文字板全体にセルが露出するデザインだったが、次第に文字板のデザインに影響を与えないものへと受光部分の存在感を消していった。 2001年にはカバーガラス部分がソーラーセルの役割を果たす「Eco-Drive VITRO」も発表。小型化の域を超えてもはや目視できないレベルまでその技術を発展させていった。現在はカバーガラスタイプは販売しておらず、文字板下にセルを配置したタイプと、リング状のセルで受光するタイプが現行だ。 時計の役目は、今ではスマートフォンやスマートウォッチに取って代わられつつある。 毎朝手首にベルトを閉めてから、1日を始める。かつては当たり前だったルーティンも、一つひとつの時計にまつわる奥深いストーリーを知ると、また戻りたくなるのではないだろうか。
荒幡温子