なぜトップ選手はダルビッシュの合同トレに通ったのか。その意義を検証。
体がひとまわり大きくなったオコエは、「どういう筋肉をつけることが、どんな形で野球につながるかを教えてもらった」と語っていたが、野球という競技に直接リンクするトレーニング理論が、ダルトレの長所なのだろう。実際、一昨年オフからダルビッシュの助言で肉体改造に取り組んだ大谷は、成績だけでなく、平均球速も飛距離も伸びて、間違いなくアスリートとしての“排気量”がチューンアップされた。 トレーニングの成果を効率よく競技に直結させた成功例。それもまたトップ選手が群がる理由のひとつなのかもしれない。 ダルビッシュの指導は、選手それぞれの目的やレベル、特徴によって様々だったようだが、体重を6キロ増やした藤浪や、3キロ増やしたオコエにように大胆な“マッチョ化”に取り組んだ選手もいる。大谷は大きな故障を起こさなかったが、そこにリスクはないのかという疑問もある。 桑原氏は、増量には、より計画性が必要だと力説する。 「トレーニング、栄養、休養で体重を増やし体を大きくすると同時に脂肪も増えています。重要なのは、体組成と筋量なんです。急激な増量は、筋肉が動く効率を落として肉体が扱いにくくなります。3年後をイメージして、ピリオダイゼーション(期分け)と言われる計画性をもって筋量を増やすことなんです。1か月に筋肉に薄皮一枚くらいの量を重ねていくイメージです。身長や代謝、年齢など、個人差はありますが、1か月に2キロ以上を急激に増やすと、筋肉の効率が落ち、また関節への負担、内臓への負担も増します。一度、体重を増やした後に、筋肉をできるだけ削らないように、脂肪分を落としていく作業が必要ですが、関節、内臓へのケアを十分に行っていなければリスクもあることも承知しておかねばなりません」 おそらくダルビッシュのことゆえ、そのリスクも十分に理解しているのだろう。そして、ダルビッシュの合同自主トレは、何も強要や、絶対的な正解を示す“ダルビッシュ教”でもなんでもなく、こういう考え方があるよ、こういうトレーニング方法があるよと、知識や見聞を広げ、トレーニングに関する固定観念をふりはらう目的があったのだ。SNSで拡散することで、実際にプロだけでなく、少年野球や、アマチュアの指導者にまで影響を与えている。そう考えると、トレーニング不毛の野球界に一石を投じた“ダルトレ”の意義は、非常に大きかったのかもしれない。