優雅な「クレムリンの子供たち」――ロシア大統領選の陰で進む政権エリートの世襲
3月15-17日の日程で行われるロシア大統領選は、ウラジーミル・プーチン大統領が圧勝で5選を決める無風選挙となりそうだ。唯一、ウクライナ侵略戦争反対を唱えたボリス・ナデジディン氏は、推薦人名簿の不備で出馬を認められなかった。4候補による選挙はプーチン氏の当選を追認する「儀式」となり、国民の関心も低下している。 エリートの間では、大統領選よりもその後に予定される内閣改造に関心が強いようだ。大統領は5月の就任式後、首相を指名して組閣を行う。閣僚ポストは利権と直結するだけに、誰が新閣僚になるのか、エリートは無関心でいられない。 ロシアでは、政権エリート二世が政界に進出する動きもみられる。プーチン政権要人やオリガルヒが70歳前後と高齢化するに伴い、子弟へのビジネス利権継承が進んでいたが、政治の世襲も要注意だ。
大統領長女が「保健相」説
エリート二世では、プーチン大統領の長女で小児内分泌科医、マリヤ・ボロンツォワ氏(38)が昨年12月16日、医療系非営利団体のインタビューに応じて注目を呼んだ。大統領には、離婚したリュドミラ元夫人との間に二人の娘がいるが、娘の存在を秘匿してきただけに、インタビューに応じたのは異例だ。 国立モスクワ大学基礎医学部の副学部長も務めるボロンツォワ氏は約40分に及んだインタビューで、「子どもの頃から医者になることを夢見ていた」「ゲノム編集技術を使って慢性疾患や先天性疾患の治癒を進めたい」などと述べた。 また、「(ロシアは)経済中心の社会ではなく人間中心の社会だ」「最も価値があるのは人間の命だ」と語った。文学への興味も語り、好きな作家としてプーシキンやドストエフスキー、清少納言を挙げた。家族については一切語らなかった。 彼女はオランダ人実業家と結婚して子供二人を産み、オランダに住んでいたが、2014年のウクライナ東部上空でのマレーシア機撃墜事件で多数のオランダ人乗客が死亡し、反露感情が高まったため帰国。その後離婚し、医療ビジネスに乗り出したとされる。 このインタビューに対し、ドイツのメディアは、ロシア・ウクライナ戦争に一切触れず、人命重視を強調したことを「厚顔無恥」などと糾弾した。ロシアの一部独立系メディアは、ボロンツォワ氏のメディア登場は、将来、保健相など要職に就任する前触れの可能性があると伝えた。 政治に関心が強いのは、長女よりも次女のエカテリーナ・チーホノワ氏(37)で、国立モスクワ大学のAI(人工知能)研究所長だ。若手研究者養成プロジェクトの理事長や、産業企業家同盟で対露制裁を回避する委員会のメンバーも務める。将来、与党・統一ロシアを基盤に下院議員を目指すとの見方もある。 オリガルヒの息子と結婚したが離婚し、その後バレエダンサーのイーゴリ・ゼレンスキー氏と再婚した。夫はウクライナ大統領と同姓で、登場しにくいだろう。