一本まるまる浜焼き鯖、「京は遠ても十八里」いまも昔も都に続く鯖街道
特に浜焼き鯖には目を奪われる。鯖の切り身を焼いて食べることはあっても、一尾まるごとはめずらしいだろう。脂ののった鯖を竹串に刺す。味付けは塩だけ。切れ目を入れてガスグリラーで丸ごと焼き上げる。遠火と強火、焼きあがるまで20分ほどかかる。 重さは一尾800グラムから900グラムもある。尾の部分に箸を入れ、頭に向かって身を2つに分けていく。エラの部分まで来たら、今度は箸で頭を押さえて竹串を抜く。するとふっくらとした身が湯気を上げながら、食べてくださいとばかりに姿を現す。焼き立てをレモンが添えられた大根おろし、そして醤油でいただく。2人で食べてもお腹いっぱいになる。 ここで「生姜はないの?」と聞かれたら、まず間違いなく若狭の出身者だ。若狭では生姜醤油で食べるのが日常だからだ。これが若狭の伝統料理「浜焼き鯖」。
一方、福井の浜焼き鯖といえば、岐阜県に接する内陸の大野市で、夏至から11日目の半夏生(はんげしょう)に鯖を食べる風習がある。江戸時代、大野藩には越前海岸に藩の飛び地があった。藩主がいわば夏バテ対策として、越前海岸で捕れた鯖を丸焼きにして食べさせたと言われる。半夏生の日、同市の鮮魚店の軒先では、鯖を焼く香ばしいにおいがする。 というように、内陸か海岸部かを問わず、この季節になると福井では鯖がよく食される。とりわけ若狭のシンボルともいえる食材だ。羽田空港の“空弁”で人気を集めた焼き鯖寿司もうまい。園田さんも空弁のおいしさに衝撃を受けたと振り返る。 しかし、残念なことに、ここ「鯖街道」や福井県内で提供される鯖のほとんどはノルウエー産だ。乱獲や環境の変化が原因で、漁獲高が激減した。1974(昭和49)年が最盛期で、福井県内で12607トン、小浜市田烏巾着組合だけでも3500トン以上の収穫があった。しかし、2014(平成26)年には、小浜市漁協管内でわずか1トンにまで落ち込んだ。