令和の新宿に冴羽獠が降臨!鈴木亮平からあふれる『シティーハンター』へのこだわり「新宿はもう一人の主人公として大切な存在」
映画やテレビドラマの撮影が可能なロケ地の情報を提供し、案内、調整を行う東京都の窓口となる組織「東京ロケーションボックス」は、映像作品を通して東京の魅力を国内外に発信しながら、ロケ撮影で地域の活性化を目的として活動している。今回スポットを当てるのは、4月25日(木)よりNetflixで世界独占配信がスタートする、鈴木亮平が主演を務める映画『シティーハンター』。1985年から週刊少年ジャンプ誌上で連載され、テレビアニメ化、アニメ版の劇場映画化もされた北条司原作の人気コミックスの日本での初実写映画化となる。子どものころから「シティーハンター」のファンであり、本作の主人公である冴羽獠役を演じる鈴木に本作での東京・新宿でのロケ撮影について話を伺った。 【写真を見る】鈴木亮平が“冴羽獠らしさ”満開!シリアスな顔に、お茶目なピースポーズまで、二面性の魅力を見せる姿を撮りおろし 新宿で、依頼人からボディーガードや探偵など表社会では処理できない問題を始末する「スイーパー」として活動する冴羽獠の活躍を描く北条司の大人気コミック「シティーハンター」。冴羽獠の新宿の裏社会ではその名が通った凄腕ながら、スケベ心を隠さない明るい性格というキャラクター性と、シリアスとコメディのバランスの取れたちょっと大人向けの作風が受け入れられ、国内では1987年からテレビアニメシリーズがスタートし、作品タイトルを更新しながら約4年にわたって放送。そのほか、長編となるテレビアニメスペシャル、劇場アニメも制作された。2023年には劇場アニメ最新作『劇場版シティーハンター 天使の涙』が公開され、その人気は衰えることなく、連載開始から40年近くにわたって愛され続けている。原作コミックス版では、連載当時の1980年代中盤の新宿が舞台となっているが、今作の映画版は、舞台を現代の東京・新宿に設定しなおし、原作コミックスの序盤の重要エピソードベースに現代的な設定や要素を取り入れた物語として再構築されている。 ■「幼少期からの想いは変わらず『いつか冴羽獠を演じたい』という気持ちがあった」 鈴木は「シティーハンター」の大ファンであり、原作コミックスとアニメの両方を楽しみ、自身が演じる冴羽獠は子どものころに憧れたキャラクターだという。 「冴羽獠の魅力は、二面性にあると思います。振り切ってふざけているパートとシリアスなパートの幅が凄い。そこに惹かれますね。子どものころに『シティーハンター』のアニメを観て、その声を演じられていた神谷明さんを凄いなと思って、声優をやりたいなと思ったくらいで。でも、その後は声優ではなく俳優になろうと思ったわけですが、幼少期からの想いは変わらず『いつか冴羽獠を演じたい』という気持ちがありましたね」。 その後、鈴木は俳優としてのキャリアを重ね、ついに念願の冴羽獠を演じることができたわけだが、そこに至るまでも紆余曲折があったそうだ。 「実写版の『シティーハンター』がやれるかもというのが、5、6年くらい前から僕のところにお話があったんです。ついに東京の新宿を舞台に実写化するわけですが、作中ではどこかニューヨークのような雰囲気の描かれ方をしていて、人物の描かれ方もスタイリッシュで、そのイメージを踏襲したまま映像化するとなると、なかなか実現が難しい。そんななかで、Netflixさんが手を挙げてくださって。とは言え、僕からすれば、『やっと夢が叶うかも』といううれしい気持ちはありつつも、『大切な作品なので、絶対にこれをいいものにしなければ』というプレッシャーのほうが大きかったです。作品は北条司先生のものであり、同時にすべてのファンのものですし、『シティーハンター』を観たことがない人にもおもしろいと思ってもらわなければいけないですからね」。 ■「日本で実写映画化するとなれば、最大の強みとなるのが『新宿』という街のルックが使えること」 原作コミックス、アニメ版両方の「シティーハンター」に対して強い思い入れを持つ鈴木は、役者として関わるだけでなく、よりファンの想いに根ざした作品にしたいと願い、ストーリーを決定する脚本会議にも参加。設定が現代になるなかで表現などが現代的にアップデートされるという流れに対し、ファン側の視点から「シティーハンター」として外してはいけない要素や表現について意見を述べるという形で関わったそうだ。 「原作コミックスが描かれた時代といまでは、表現が違うところがあるので、実写映画化は完全に原作どおりというわけにはいかないです。当然ながら、いま風の改変はしなければいけない。でも、絶対に愛のある改変にしないといけないという想いがあって、そこは常に意識していましたね。ちゃんと現代の話にしなくてはいけないと思っているので、新宿を描くなら、歌舞伎町の若者をリサーチして、その裏にある社会的なテーマを出そうとか、いまの人たちがSNSを使ってネットを介して情報を発信したり、つながっているような部分はちゃんと描いてほしいというところはありましたし。一方で、会議では僕が原作オタク的な部分を出し過ぎたところもありましたね。原作のイメージにこだわり過ぎて、監督たちから『いや、それじゃあ知らない人がついて来れないです』って言われたことももちろんあります(笑)」。 そして、そうした作り込みのなかで重要になったのが、作品の舞台となる新宿の描き方だ。「シティーハンター」という作品においては、様々な人が行き交う巨大都市であり、東京を代表する繁華街としての表の顔と、歓楽街であり歌舞伎町に代表される犯罪都市としての裏にもなる顔も持つ新宿という街の放つ存在感。「シティーハンター」の作品の空気を作りだしている新宿をきちんと描くために、本作では可能な限り新宿でのロケ撮影にこだわったそうだ。 「『シティーハンター』はいままで、ジャッキー・チェン主演の香港版、ちょっと前に話題となったフランス版、それに韓国のドラマ版とこれまで3作品が実写化されているんです。でも、海外の作品ではなく、日本で実写映画化するとなれば、最大の強みとなるのが『新宿』という街のルックが使えることなんですよね。本物感があるわけですし、日本の作品としてやるならばそこをきちんと使わなければ意味がないだろうということで、相当こだわってロケ撮影をしています。新宿は『シティーハンター』におけるもう一人の主人公として大切な存在ですからね。だから、本編を印象づける冒頭シーンは、ドローンでの新宿の全景から入っているんです」。 「日本の作品だからこそ、新宿をきちんと見せる」。このこだわりから、新宿でのロケに対しては並々ならぬ力が注がれており、なかでも治安面などを含めて、場所柄としてなかなかロケ撮影が難しい歌舞伎町でも、新宿・歌舞伎町の地元商店街、新宿行政関係者、警視庁・新宿署など各関係者から全面協力を得ての大規模なロケ撮影が行われた。 「歌舞伎町でのロケ撮影は、これまでにないレベルで行われ、特に新宿区観光課や商店街の方々の協力がすごくあったそうです。『シティーハンター』の撮影ならしょうがないって言っていただけたようで。そこは作品の力が大きかったと思いますね」。 ■「雰囲気が伝わる映像になったのは、歌舞伎町という場所が出すリアリティにこだわった結果だと思う」 実際の撮影にあたってもかなりの労力が割かれている。歌舞伎町タワー前やTOHOシネマズに向かう通称「ゴジラロード」と呼ばれる通りをはじめとした道路での撮影は、トラブルなどが起きないような形で徹底した準備がなされていた。 「歌舞伎町タワー前の広場での撮影は、安全を確保するうえでは貸し切らないとできないので、イベント会場として貸し切りにして、そこにエキストラの方々を400人以上入れて、普段の雰囲気を表現していました。ただ、TOHOシネマズ前の通りに関しては閉鎖することができないので、なかなか大変でしたね。最初にこちらが走り抜けるルートだけを決めておいて、そのルートに沿う形でエキストラの方を配置し、そのなかに突発的な状況に対応できるような方も混ざってもらっていました。そういう意味では、今回の撮影では、一番ピリピリした現場でしたし、監督も緊張していたと思います。歌舞伎町の雰囲気を伝えるのが重要だったので、『歌舞伎町で撮影ができてうれしい!』という感じではなく、何事もなくロケが終わってホッとしたという感じがありました」。 そうした入念な撮影準備を行った結果、歌舞伎町の持つ派手で怪しい雰囲気を「シティーハンター」という作品の魅力として取り入れることができた。それは、完成映像を観た鈴木も満足だったという。 「歌舞伎町のシーンは、全部歌舞伎町で撮影しているのではなく、一部は名古屋で撮影していて、名古屋の皆さんにも協力いただいています。でも、実際に歌舞伎町で撮ったからこその雰囲気というのがあって、香が一人で歌舞伎町に足を踏み入れて不安そうにするカットは、自分が初めて歌舞伎町に入って『こんなところに一人で来て大丈夫なのかな?』と思ったことを思い出しました。そうした雰囲気が伝わる映像になったのは、歌舞伎町という場所が出すリアリティにこだわった結果だと思いますね」。 そのほかにも、「シティーハンター」らしい空気が感じられる新宿周辺でのロケも本作の見所となっている。 「東新宿のビルの屋上で香と会話するシーンは、ちょうど新宿の街を見下ろすことができるホテルの屋上を借りて撮影しています。屋上という密室で誰かと大事な話をするのは、まさに『シティーハンター』らしい画なので演じたなかでも印象深いですね。歌舞伎町での撮影は不安が大きかったので緊張感が強かったですが、屋上のシーンは撮影面での不安がないということもあって、『新宿をバックに冴羽獠になって撮ってるな』とちょっと気持ちも上がりました。そして、『シティーハンター』では、歌舞伎町も大事なんですが、どちらかと言えば西新宿なんですよね。アニメ版でもよく登場していましたし。ファン代表として出させてもらった脚本会議でも、シチュエーションのアイデアをいくつか出させてもらいました。獠が活躍するもう一つの作品である『エンジェルハート』では、槇村が殺されてしまう場所が西新宿の虹の橋に設定されているんですが、そこでロケができないか?とか、そこで槇村が死ぬシーンを撮れないか?とか提案して。最終的には、冴子との都庁の夜の展望台で会うシーンや、そのあとに獠が一人で夜の西新宿を歩くシーンなんかも撮影させてもらっています」。 こうして実際に新宿を描くことに注力し、映画『シティーハンター』が完成。実際に映像のなかに印象深い新宿の姿が描き込まれ、心が揺さぶられたそうだ。 「自分がロケ撮影には行っていないんですが、物語のラストで朝焼けの西新宿から歌舞伎町に向けて靖国通りをミニクーパーが走るシーンがあるんです。獠は映らないんですが、ハミングでベートーヴェンの『第九』を口ずさむところは槇村を想っている感じが伝わるし、そのあとに登場する朝焼けの新宿の空撮もすごく実在感があっていいんですよね。最終決戦の地となるとある施設は、新宿の地下にあるという設定なんですが、そこもある意味『シティーハンター』感があっていいですし、靖国通りを抜けてその地下施設にミニクーパーで向かうショットも現実と続いているような感じでちょっとテンションが上がりました」。 ■「実写化された『シティーハンター』のなかでは、もっとも『シティーハンター』らしい作品になった」 本物の新宿を背景することによって、多くのファンが夢に見てきた冴羽獠が新宿に実在するような思いにさせる映像に仕上がった。最後に、夢想していたシチュエーションが実際の映像になることで、原作コミックスやアニメとは違った形で解像度の上がった映像に対しての想いを語ってもらった。 「僕自身の感想としては、これまで実写化された『シティーハンター』のなかでは、もっとも『シティーハンター』らしい作品になったと思います。北条司先生が描かれたオリジナルの漫画の世界観に近い形で、でもアニメ版の要素もたくさん入れているので、そういうバランスでいいものができたなと。自分が出演している作品に関しては、どうしても客観的に観ることができなくなってしまうのはいつものことなんですが、『シティーハンター』ファンとしては単純に楽しめないのがちょっと寂しいですね。でも、それは自分が冴羽獠を演じられたということの副作用みたいなもので、ものすごく幸せなことなんだと思います。作品を観ていただいて、往年のファンの方には本当にいまの新宿に冴羽獠がいるように感じてもらえたらうれしいですし、『シティーハンター』を知らなくて、ここで始めて触れる方もたくさんいると思いますので、“はじまりの物語”としてここからなにかを感じて、おもしろいなと思ってもらえるとうれしいですね」。 取材・文/石井誠