「言いたい放題の人は責任を取りません」/コロナ禍にフルーツバーや配膳ロボット、銀座の老舗レストランの挑戦~三笠会館の事業承継後編
鶏の唐揚げを初めてメニューに載せたとされる銀座の老舗レストラン「三笠会館」(東京都中央区)。1925(大正14)年に氷水屋として歌舞伎座前で産声をあげ、2年後に食堂へ転身。現在4代目の谷辰哉代表取締役社長は、東日本大震災やコロナ禍という様々な荒波に直面したが、フルーツバーや配膳ロボットなど多様なアイデアを生み出し、乗り越えてきた。2025年に創業100周年を迎える三笠会館が、次に志す道を聞いた。 【動画】専門家に聞く「事業承継はチャンスだ。」
◆レストランだけでは生き残れない
――大震災の翌年となる2012年に社長に就任。近年ではコロナ禍が、世界を覆います。外食産業は大きなダメージを受け、人々の食への向き合い方も変化しました。 もともとコロナ禍が始まる前から、社員には「高齢化社会の上に、人口が減っていく中、その人たちの時間とお金を何に使ってもらえるのか? 存分に食べられる“健康な胃袋”の数となるともっとずっと少ない。 レストランだけでは生き残れない」と話し、テイクアウトやレトルトなどのご家庭で食べられる“中食”も含めた、総合食へと緩やかに軸足を移そうと考えていました。 そこにコロナショックが起こり、仕事ができない、 外出してはいけない、マスクをつけなければいけない、症状で味が分からなくなるかもしれない……と、想像もしなかった危機に皆が晒されました。 ここで社員の意識が大きく変わりました。 特に、レトルト開発はこれまでにないハイペースで商品化が進み、ナポリタンなどのパスタソースをはじめ、ビーフシチューにチキンカレー、フカヒレスープなど、この2年で15種以上になりました。 「つらい時ほど美味しいものを」と、非常食にお求めいただく方も多いんです。 キャンプのお供に、煮込みハンバーグの缶詰を購入されるお客様もいらっしゃいます。 お客様の使い道を聞くとうれしくなります。
◆趣味はサーキットにオーケストラ、そこから生まれる発想
――2021年の緊急事態宣言下では、酒類の提供が制限されるなか「BAR 5517」をフルーツバーとして営業するなど、店舗の在り方も臨機応変に変えていらっしゃいます。 ノンアルコールカクテルの「モクテル」が注目を集めていました。 「バーはお酒を飲むもの」といった固定観念に縛られず、柔軟な対応でニーズを叶えていく。 バーテンダーから「妊婦さんや、お酒を飲めないお嬢さんがお父様に連れられて来店された」といった話を聞きました。 現場の声を聞き、客層を開拓して新たな楽しみを提供できたのではないかと思います。 どうも私は人と違うことをしたいサガのようで、今はやっていませんが、趣味はサーキットと、オーケストラでファゴットを奏でること。 「レストランしか知らない」人間だと、発想にも限界があります。 幅広い経験が、経営にも多様なメリットをもたらしてくれるのを感じています。