朝ドラ『虎に翼』脚本家吉田恵里香さん語る「描きたい寅子像と主演伊藤沙莉さん」|VERY
──朝ドラのヒロインに失敗や挫折はつきものですが、不倫や犯罪の描写はほぼありません。多くの視聴者に応援されるキャラクターとして、お茶の間にふさわしい品行方正さや、奔放すぎない態度を求められているのかなと感じることもあります。ドラマを描くとき、そのさじ加減には難しさがあったのではないでしょうか。 視聴者の反応まですべてを背負う覚悟はあります。この表現を使ったときにどのような印象を抱く人がいるか、というところまでは必ず考えています。 もちろん多くの人に見てほしいですし、楽しんでほしいのですが、エンタメは見る人の好みが分かれて当然だと思っています。気になる表現に留意しながらも、今書くべきことを書くという信念を持ち続けるようにしています。
「寅子」のような女性がいたからこそ、今の私たちがある
──物語の時代背景は、ようやく女性が法曹界に進出する資格が認められた時期。女性への権利は到底与えられておらず、男女差別のある時代でした。主人公の寅子を通して、これらのことをどのように描かれるのかもとても楽しみです。 寅子が学生時代を過ごした昭和初期の法律は、今では信じられないくらい女性に不利な内容でした。女性が法曹分野に進むこと自体が周囲から理解されず難しい状況の中で道を切り拓いた寅子のような女性たちがいたおかげで、今の私たちがある。その過程を書きたいと思っています。
書き続けることへの「不安」はいつだってある
──吉田さんの作品を見ると、小さな心情描写一つにもドキッとさせられます。時代性を捉えた恋愛の仕草や表現はどのように更新されていますか? 自分の中でも模索していることだったので、作品を見てそのように感じてもらえているならうれしいです。今は“胸キュン”という言葉自体に嫌悪感を抱く人もいると聞きます。その一方、ドラマを見る上では“俺様”的な強引な愛情表現からしか得られない養分のようなものがあることも無視できません。以前だったら気軽に飲みに行って、そこで出る話題や街の空気感を知ることも仕事の役に立っていたけれど、子育てをしている今はそう簡単には出かけられません。吉田の書くものは古いと言われないか、5年後10年後に仕事はあるのか。正直今も書き続けながら不安は常にあります。 ──その不安を拭うために意識していることはありますか? 自分が書きたいものや書いていて楽しいことを書きつづけるしかないと思っています。 私の場合はじっくり1本の作品だけに時間を費やすよりも、同時に数本の作品に向き合う方が作品との距離感がうまくつかめるんです。また、仕事として自分や家族のためにもちゃんと「稼がなきゃ」という思いもあります。自分の書きたいものを書くというだけでなく“職業としての作家”という部分も大事にしたい。 今後書きたいことを書き続けるために、たくさんの作品を書く。そうすれば私の信条とは異なるけれど生活のために無理に仕事を受けなければと迷う前にちゃんとNOを言えます。常に同時並行で仕事をするのは本当に書きたいものを書くための種まきでもあるんです。