「効率化」を求めるイーロン・マスクが示した"クソ野郎指数"とは何か?
あらゆるメディアから日々、洪水のように流れてくる経済関連ニュース。その背景にはどんな狙い、どんな事情があるのか? 『週刊プレイボーイ』で連載中の「経済ニュースのバックヤード」では、調達・購買コンサルタントの坂口孝則氏が解説。得意のデータ収集・分析をもとに経済の今を解き明かす。今回は「イーロン・マスク」について。 * * * 「クソ野郎指数」。 テスラやSpace Xで"idiot index"と呼ばれている、イーロン・マスク氏の管理手法には舌を巻いた。 企業は取引先から多くの部品を調達する。「利は元にあり」というほど、仕入れ価格の適正化は企業利益に直結する。この「クソ野郎指数」は調達価格の妥当性を確認するための尺度で、単価を重さで割ったシンプルなものだ。 たとえば、それぞれ10㎏で$10、30㎏で$60、50㎏で$75の部品があるとする。表面的には$75がもっとも高い。 ただ、指数はそれぞれ「1」、「2」、「1.5」。この数が大きいほど、重さ当たりの価格が高い。同じような素材で作られているなら、もしかすると無駄な加工を施しているかもしれない。つまり削減の余地がある「クソ野郎」というわけだ。 逆に値が小さいほど、それは素材そのものの価格に近づいていく。理想の部品だ。シンプルでパワフルな尺度だ。 来年にはドナルド・トランプ大統領が誕生する。政府効率化省を設立し、マスク氏が要職につくという。全容は不明だが、無駄な支出を削減したり、規制を撤廃したり、官僚機構をぶっ潰したりするための組織だという。私は冒頭の手法を思い出し、面白い試みではないかと感じた。 しかし爆笑したのは、さっそくXにアカウントができた点。政府効率化省=Department of Government Efficiency(DOGE)のアカウント名が「@DOGE」だって! マスク氏が激推ししていた暗号資産と同名じゃん。なんでもありだな。 実際にトランプ当選以降、ドージ(DOGE)コインはビットコイン以上の爆上がりでお祭りになっている様子。マスク氏はトランプ氏への1億1800万ドルという多額献金が知られているが、テスラ株とドージコインの上昇によって"取り返した"。 さらに同省の投稿も面白い。週に80時間以上は働いてくれる高IQの革命家を募集するとした。応募はDMで、上位1%はマスク氏が確認するらしい。 またマスク氏自身のアカウントでも、いかに米国で支出の無駄遣いが恒常的になっているかを指摘している。7兆ドル弱の国家予算を2兆ドルほど削減できるというのだ(!)。まあ、今から数字の厳密性をツッコむのは野暮(やぼ)だね。お手並み拝見というわけか。 ところで気になったのは、マスク氏がテスラやSpace Xを売っちゃうのかな、という点。 複数企業のCEOだもんねえ。しかし調べてみると、トランプ氏はこのDOGEを政権外から助言を与えるものと位置づけているようだ。だから日本語では政府効率化「省」というより、政府効率化「委員会」が近いかもしれない。しかも期間限定。 なるほど、これならマスク氏が自企業を手放すことはないわけだ。マスク氏はさらに多忙になってしまうだろうが、自身で望んだ道。ここからは勘ぐりだが、自分じゃなくても政府内に自社の幹部を送り込む可能性はあるだろう。 それにしても政権外から力を及ぼす仕組みとは考えたものだ。 たとえば中国からの輸入には高関税をかけるものの、電気自動車用の部品には低関税にするとか、または自企業と対立する可能性のある証券取引委員会等を人員整理対象にするんだろうか、とか。もちろん利益相反はやらないと思うが、自身が「クソ野郎」と呼ばれないよう祈る。 写真/時事通信社