『南くんが恋人!?』は多様な愛の形を映し出す “IF”の世界を突きつけられる切なさ
“HEAVEN CAN WAIT(天国は待ってくれる)” 南くん(八木勇征)がそうつぶやいた瞬間、バスケの試合後にちよみ(飯沼愛)との待ち合わせ場所に向かうところまで時間が巻き戻される。トラックはぶつかる直前で止まり、命拾いをした南くんはちよみと約束の“お城”へ。大人の階段を登った2人は家族に祝福され、地元の夏祭りにも仲良く参加する。 【写真】“お城”で大人の階段を登った南くん(八木勇征)とちよみ(飯沼愛) そんな幸せな光景が描かれた『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系)第6話。最初はまさかの夢オチパターンかと思われたが、それは「南くんがもし小さくならなかったら」の“IF”の世界であり、ちよみと南くんが当たり前に訪れると思っていた未来だった。 体が小さくなったのは神様が死ぬ前にくれた猶予だと語っていた早苗(国仲涼子)が“消えてしまった”ことに動揺を隠せない南くん。早苗の言葉を信じたくない気持ちもあるが、自分もそう長くないうちに消えるかもしれないと思いながら、ちよみとの時間を過ごす。 一方、2人が話している場面に遭遇してしまった信太郎(武田真治)は挙動不審に。家族からも不審がられる中、楓(木村佳乃)の前夫・たけし(富澤たけし)が突如帰ってくる。生粋のダメ男で楓と離婚し、実の母である百合子(加賀まりこ)にも縁を切られてしまったたけし。反省して戻ってきたかと思いきや、目的はお金を貸してもらうことだった。 百合子は叱ることもせず、たけしに手切れ金を突きつける。散々迷惑をかけ、家族を辛い目に合わせてきたたけしの居場所はもうここにはなかった。本人もそれを察したのか、大人しく家を出ていき、一件落着。信太郎はちよみの秘密をみんなに明かすことはなかったが、「僕は決してこの家族を裏切るようなことはしない。楓を傷つけるような真似はしない」と誓う。実の息子である拓真(番家天嵩)が確信するのも納得の世界一信頼のおける男を武田真治が抜群の安心感で体現している。 たけしが出ていったと思いきや、次にちよみの家を訪ねてきたのは美鈴(武田玲奈)だ。美鈴は勝手にちよみの部屋に押し入るが、そこに南くんの姿はなかった。しかし、部屋の雰囲気からちよみが南くんの居場所を知っていると確信した美鈴は「恋愛で勝てるとは思ってないけど、コーチと選手の関係は奪わないで」と訴えかける。もちろん恋愛感情も含まれているが、それ以上に彼女は選手としての南くんに惚れているのだろう。 この第6話で描かれたのは、多様な愛の形だ。ちよみの親友である奈美(大和奈央)とその彼・翔太(石澤柊斗)のように普段はラブラブだけど、時には正面切って意見をぶつけ合う激しい愛もあれば、手芸部の溝口(今井柊斗)みたいに南くんが好きなちよみのことを丸ごと受け入れる深く愛もあり、形は一つじゃない。 そんな溝口がくれた手作りのTシャツに刺繍されていた文字が“HEAVEN CAN WAIT(天国は待ってくれる)”。まるで今の自分の状況に当てはまるような言葉に南くんは驚く。そして、冒頭で述べた場面へ。そこで描かれたように、本当なら何の障害もなくちよみと一生一緒にいられるはずだった。だが、それはただの妄想であり、現実はそうじゃない。 自分はもうすぐ消えるかもしれないのに、ちよみが自分ありきで将来を考えていることが苦しくなった南くんは「ちゃんと自分のこと考えて(大学も)選んだ方がいい」と告げる。ちよみは「なんでそんなこと言うの?」と涙目になるが、南くんはちよみを傷つけたいわけでも不安にさせたいわけでもなかった。 「家族ともちゃんとお別れができるから、病気で死ぬことがわかって幸せ」と笑顔で語っていた母・薫子(八木亜希子)のように、自分がいなくなった後もちよみに幸せでいてほしかったから。それも愛の一つの形だ。あたたかくて、切ない愛。だけど、今のちよみにとって南くんは世界の全てであり、南くんを失うなんて到底受け入れられないだろう。「俺はもう死んでるんだ」と衝撃の告白を受けたちよみの心が壊れてしまわないか心配だ。
苫とり子