大詰めTPP 難航分野の現状と展望は?
【環境】アメリカやオーストラリアは、先進国並みの環境規制を強硬に主張しています。開発途上の技術段階では厳しい要請であることから、新興国が強く反発しています。漁業補助金についても、「乱獲を招く」として議論に上がりました。日本の漁業者にとっては死活問題ですが、「過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止」という方向で調整が図られています。 【投資】開発途上国では政府が民間企業を国有化してしまったり、税金を大幅に引き上げたりするような事態が起こり得ます。そのため、企業の権利や資産を守るISDS条項を設定することが重要です。ところがTPPの場合、アメリカという訴訟大国の存在も不安要因となっています。実際、オーストラリア政府は、タバコに肺癌の写真と警告を載せるよう義務づけてアメリカ企業から訴えられた経験から、反対にまわっていました。この問題については、提訴者の資格や賠償金の範囲などを細かく定める方向で調整することになりそうです。 【労働】非人道的な条件の労働や児童労働をなくすため、労働についてのルールづくりが進められています。参加国の間では、労働コストを低く抑えて不当に安い製品を生産する「労働ダンピング」を許さないことで一致した模様です。従来の通商交渉では扱われてこなかった議論であるため、ルール整備までには時間がかかりそうです。
TPP成立までは前途多難
参加国の対立点の多くは、未解決です。また、アメリカではオバマ大統領が議会からTPA (Trade Promotion Authority/通商一括交渉権)を付与されるかどうかも、微妙な状況です。アメリカの憲法では通商交渉権は議会に属しており、議会が大統領にTPAを付与すれば、大統領は議会に賛成か反対かだけを問えばよいことになりますが、アメリカ国内でも「TPPは国内の雇用情勢を悪化させる」という意見が根強いためです。 TPAを取得できれば追い風となりますが、取得できなければ、参加国の交渉がまとまっても議会で修正を要求される可能性が高く、条約締結まで至るのはさらに難しくなります。 (広沢大之助・社会科編集者)