エース・東の穴を埋めた57球…DeNA吉野にトヨタ時代フォークを伝授 吉見さんが教えた“1球の大切さ”
◇渋谷真コラム・龍の背に乗って CS特別編 ◇18日 「2024 JERA クライマックスシリーズ(CS) セ」ファイナルステージ第3戦 巨人1―2DeNA(東京ドーム) ◆DeNA・オースティンの勝ち越しソロを喜ぶ応援スタンド【写真】 本来ならエース・東が投げるはずだった第3戦を任されたのは、2年目の吉野だった。岡本和に特大の先制ソロを浴び、3イニングを4安打、1失点。ショートスターターのような形にはなったが、大崩れせずにブルペンにバトンを渡せたことが最後に効いた。 九州学院高から上武大をへてトヨタ自動車に入社。同じ2021年に野球部のテクニカルアドバイザーに就任したのが吉見一起さんだった。 「僕にとって初めて『プロでやりたいです』と言った選手」。名門の野球部だからといって、全員が目指しているわけではない。吉野のこの言葉を聞いて、吉見さんは接し方を変えた。今季3勝。大きな武器となったフォークは、二人三脚で磨きをかけた。 「投げた瞬間に、いかにストレートに見えるかなんです。打者にもどう見えたかを聞きながら、真ん中から落とせと」 変化球の肝は、いかに振らせるかの偽装だ。どれだけ落ちたかに、意味はない。エサに食い付かせるためにはコースぎりぎりではなく「真ん中から」。同社には一流のアナリストが所属する。その数値を見せ、どこにどう落とせば打者が振るのかを納得させながら習得度を上げた。 「縫い目にかけるとか、握り方は人それぞれなんです。それより指の入れ方というか、はさみ方。グリップが利いていれば投げられるんです」 この日も長野からフォークで空振り三振を奪ったが、吉見塾長から受けた教えは変化球だけではなかった。 「仲間と群れるな」「練習のノックでも球際を追え。1軍の選手はそこを抜かない」。精神論ではない。プロが目標ではなく、その先が本当の勝負だと吉見さんは伝えたかったのだ。2年後のドラフト解禁年に2位で送り出した。吉見さんにとってもプロ1号だった。エースの穴を必死に埋めた57球。1球の大切さを学んでいたからこそ、あと1本を打たせなかったのかもしれない。
中日スポーツ