デザインコンペ受賞率9割超!?…たった1分でアイデア生み出す“アイデアクリエイター”が「毎日実践していること」
アイデアの本質は課題を解決できるものかどうか
―感覚を伝えたいというのは印象的です (石川)これも夢の話の一環ですが、将来的には「アイデアクリエイター集団」をつくりたいんです。僕と同じような感覚を共有できるメンバーで数多くの町工場が抱えている課題などを解決したいと思っています。 町工場には技術力はあるけれど、企画力が不足している場合があります。技術はあるけど何を作って良いのかわからないということです。そこで自分のコミュニティのメンバーと町工場に働きかけて、お互いにウィンウィンな関係になるような活動もしていきたいです。 ―そもそもアイデアクリエイターを目指されるようになったのはどうしてでしょうか (石川)僕も昔はアイデアクリエイターを名乗れるような人ではなく、独りよがりなアイデアばかり生み出していて、プロダクトの見た目は良くても、そこにどんな機能があるのか、どんな風に役に立つのかということがすっぽり抜けていました。 アイデアを生み出す人になろうと明確に決めたのは大学1年生のときでした。当時、大学のある市と大学がタイアップして、その市の代表的なお土産を作ろうというプロジェクトがあったんです。お土産のテーマは「左向きの馬のサブレ」。左向きの馬には幸運をもたらすという意味があるそうで、そのサブレのデザインを考案するというものでした。 大学1年生ですので高度なソフトを扱えるわけでもありませんし、学部や大学院の先輩と比べてデザインの技法を身に着けていたわけでもありません。とりあえず挑戦してみようと思ってA4の紙に鉛筆でサブレの形を描いて出してみたんです。そしたらファイナリスト10人に選ばれたということがありました。その後、その10人の案から投票して選ばれるわけですが、こんなA4の鉛筆の走り描きが選ばれるものかと思っていたところ、上位3位に入賞したんです。 そんな経験から、とりあえずうまく表現すれば良いということではなくて、そのデザインの意味やどのように役立つのかが本質であると気づくと同時に、自分にはその才能があるのかもしれないと思うようになりましたね(笑)。 もちろん、そこからすぐにうまくいったわけではありません。馬サブレのコンペの運営側のメンバーでもあり、受講していた講義のティーチングアシスタントだった先輩に何度も自分のアイデアを持っていってはダメ出しを受けました。その人は辛口な指摘をくれるけれどコンペの受賞歴も多数の実力派で、その人に認められたいという一心でした。メンタルもこの時に鍛えられたのだと思います。 こうした一連の経験で気づいたことは、主観的に「これは面白い!」と思ったアイデアでは意味がなく、客観的な視点や、みんなの共通認識となっている課題が解決されるようなアイデアでないと受け入れられないということでした。そこから課題起点でアイデアを考えることができるようになりました。そこからコンペでも受賞率が上がりましたし、授業でも評価されるようになっていったんです。 ―すると、日々のアイデアは「面白そう」ではなく「こうなった方が便利だ」という視点で生まれているということですね (石川)そうです。身の回りのどんなものであっても「もう少しこうだったらいいのに」という部分が絶対にあるはずです。その「こうだったら」の部分を、ちょっとした工夫で解決できないかなという視点でアイデアを出しています。 ―ちょっとした工夫がポイントなんですか (石川)他人から評価されるアイデアやデザインというのは、なるべく短い時間で理解し共感される必要があります。だからこそマイナーチェンジが良いのです。大げさなフルモデルチェンジをすると相手が理解するまでに時間がかかってしまいます。それに、提案する側と同じ熱量で見てくれるとも限りませんので、しっかり意図を汲み取ってくれるわけではありません。だから、「ちょっと変える」「ちょっと工夫する」が大切なのです。それに、ちょっとした工夫でみんなの課題が解決されるという驚きも与えることができます。アイデアは共感も大切ですが、驚きもないと印象に残らないですよね。 その驚きというのは、「意外性」や「斜め上のアイデア」で、言い換えると「ありそうでなかったもの」ということだと思っています。これは僕の活動のコンセプトでもあります。 ―他人に共感や驚きを持ってもらうと言っても、みんなが同じ価値観を持っているわけでもないので一筋縄ではいかなさそうです (石川)その通りです。X(旧Twitter)で「いいね!」がたくさんついたアイデアがコンペで入賞するとも限りません。社内の業務であったり、コンペの場合には、つまるところ直近の承認者の理解を得なければなりません。だからこそ、その人の趣味や嗜好、何を求めているのかを深く想像していきます。そのため、アイデアを考える前の段階にすごく時間をかけていて、提案する相手によって入念に戦略を立てるようにしています。そして相手の感性や期待に添うものと、あえて裏切るものの2パターンを用意し、どちらが採用されるのかを検証していきます。期待に添うものが好みの人もいれば、意外性を採る人もいますので、それを自分のデータとして蓄積し、今後の仕事に生かしていきます。 こうした考え方を続けていくと、客観的な視座が養われていき、どんな人ともコミュニケーションをとりやすくなってきました。具体的には話をする相手に合わせて自己紹介の内容を調整したり、プレゼンテーションの場の雰囲気づくりができるようになったということです。そう考えると、アイデアを考えることが相手と良い関係を築くスキルにもつながっているようにも思っています。そしてこれは、すべての職業で活用できる汎用的なスキルだとも思います。 ―たくさんの夢や目標を話していただきました。今後、まずは何から取り組みたいですか (石川)大小あわせると本当にたくさんの夢や目標があるのですが、まず、先ほどの「アイデアクリエイター集団」については3年後までには実現したいと思っています。そして自分のブランドも持ちたいと思っています。 色々なアイデアが形にならないのがもったいないということもありますし、「どこで買えますか」「どうして商品化しないんですか」といった声もいただきます。中にはアンチコメントで「この人はアイデアだけ出していて何もしない人」なんて言われることもありますね(笑)。 だからこそ、アイデアを商品化していきたいと思っていますし、せっかくそうするならブランドにしたいですし、ゆくゆくはセレクトショップみたいなのを作って、個人で活動しているコミュニティのメンバーと運営するようになったらすごく楽しいと思っているんです。SNSでの活動を通じてメーカーや町工場の方とのパイプもできましたから、あとは進めていくだけです。ここで築かれた「アイデアクリエイター集団」の活動をLINEヤフーと接続し、さらなるシナジーを起こしていくことも、もちろん考えています。