地方路線だけでなく東京圏でも「ワンマン運転」の列車が増えている事情 乗務しなくなった「車掌」の仕事をどのようにカバーしているのか
鉄道は、多くの人にとって交通の手段としてだけでなく、趣味や娯楽の対象としても親しまれており、ときに人々の知的好奇心を刺激してくれる。交通技術ライターの川辺謙一氏による連載「鉄道の科学」。第27回は「車掌の仕事」について。 【写真】ホームを監視する駅員。車掌とともに、安全を確保する重要な役割を果たしている
東京圏でもワンマン運転の列車が増える
現在日本の鉄道では、大多数の旅客列車(以下、列車)で運転士と車掌の両方が乗務しています。運転士と車掌はそれぞれ役割分担をして、列車による安全な輸送を実現しています。 ところが近年は、ワンマン運転の列車が増えました。ここで言うワンマン運転とは、車掌が乗務せず、運転士が1人だけ乗務する運行方式を指します。 現在は、ワンマン運転の列車が、地方路線だけでなく、地下鉄をふくむ都市鉄道を走っています。たとえば東京圏では、つくばエクスプレスが2005年の開業以来、6両編成の列車でワンマン運転を実施しています。また、東京メトロは、副都心線や有楽町線を走る10両編成の列車でワンマン運転を実施しています。今年3月には、JR東日本が常磐線各駅停車(10両編成)や南武線(6両編成)でワンマン運転が実施する予定です。 なぜこれほどまでにワンマン運転の列車が増えたのでしょうか。今回は「車掌」の仕事に注目し、その理由を探ってみましょう。
車掌の仕事
車掌の仕事は多岐にわたります。わたしたちが鉄道を利用するときに見ているのは、その一部にすぎません。 また、鉄道利用者がわかる仕事だけでも、さまざまな種類があります。私の友人である車掌に聞いたところ、ざっくり言うと以下の8種類の仕事があるそうです。 【1】ホームの監視 【2】ドアの開閉操作 【3】車内アナウンス 【4】車内の監視・巡回 【5】検札や乗車券などの販売 【6】運転士や指令員との情報共有 【7】車内の空調管理 【8】異常時対応 これらは、すべて重要な仕事です。ただし、それぞれくわしく説明すると長くなるので、今回は【1】と【2】だけ補足説明します。 【1】の「ホームの監視」は、列車を安全に走らせるための重要な作業です。この作業では、列車が駅に到着、出発するときに、車体側面の窓から顔を出して駅のホームの状況を監視し、非常時には列車を緊急停車させます。言い換えると、前方しか見えない運転士の目の代わりをして、ホームでの安全を確保しているのです。列車が出発してホームを離れた直後は、列車の進行方向に対して後ろを向いて、ホームで異常が起きていないかを確認します。 【2】の「ドアの開閉操作」は、車体側面にあるドアを開け閉めする作業です。これは、列車の編成が長くなり、ドアの数が増えるほどむずかしくなります。たとえばJR山手線では11両編成の列車が走っており、駅に停車するたびに44ヶ所のドアが一斉に開閉します。もちろん、乗客が駆け込んで身体が挟まる、もしくは乗客が持つ荷物が挟まるなどして、ドアが1ヶ所でも正常に閉まらないと、列車は出発できません。これによって出発時刻が定刻よりも遅れると、その影響が他の列車に及び、路線全体でダイヤが乱れ、輸送が混乱することがあります。 以上が、車掌が真剣な顔つきで【1】や【2】の仕事に向き合っている大きな理由です。他の【3】~【8】の仕事に関しても、車掌が真剣に向き合う理由があります。