映画人に愛される水澤紳吾が『ブギウギ』に 小田島は戦後の日本を象徴する存在に?
放送中の朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)は、またも大波乱の予感……。ヒロイン・スズ子(趣里)のもとに一本の怪しげな電話がかかってきたのだ。その内容は、「娘の愛子(このか)を誘拐されたくなければ3万円用意しろ」というもの。脅迫である。 【写真】スズ子(趣里)の演奏に満足な表情を見せる羽鳥善一(草彅剛) 声の主は小田島大という男らしい。演じるのは、これが初めての朝ドラへの出演となった俳優・水澤紳吾だ。 第24週「ものごっついええ子や」は、羽鳥善一(草彅剛)の作曲二千曲記念のビッグパーティーからはじまった。非常に陽気な展開だ。そのいっぽうで、8歳になった愛子とスズ子の関係はあまりうまくいっていない様子。言わば愛子は芸能人の子ども。はたから見れば恵まれた環境にいるように思えるが、彼女には彼女なりの思うところがあるのだろう。母娘の間に生じた小さなズレはいつの間にか大きくなり、ついに衝突が起きたしだいである。 ちょうどそんなところへ付け入ってきたのが小田島だ。番組の公式サイトには、“妻を若くして亡くし、息子と二人で貧しく暮らす。”とある。どうやら極悪人というわけではないようだ。いまのところ声のみの登場だが、これを水澤はどのように演じるのだろうか。 『ブギウギ』への出演に際して水澤は「朝から私がテレビに映っていいのかと心配でした。しかし、いただいた脚本、貧相な男とあり、あぁ!となって、グッと気合が入りました」とコメント。声の印象からはたしかに貧相な男の姿が浮かぶが、かといって決して卑しいイメージはない。さらに水澤は「もはや戦後ではない、とも表現された自由と活気ある世の中に、背中を丸めて生きている小田島という男でした」と続け、脚本から読み解いた小田島像に対する印象を述べている。 有楽町界隈を取り仕切るおミネ(田中麗奈)との出会いがスズ子のパフォーマンスに影響したように、この小田島との出会いもそうなるのではないかという気がするが、どうだろうか。時代は1955年。戦争が終わって10年が経った頃で、人々の生活水準の格差は非常に大きい。おミネたちがあの当時の一部の女性らを象徴していたように、小田島もまた戦後の日本のある側面を象徴する存在になるのだろう。あの時代を描くうえで、非常に重要なキャラクターだといえるはずである。 そんな小田島を演じる水澤といえば、テレビドラマでの活躍もさることながら、多くの映画人に愛される俳優だ。出演作数はかなりのもので、挑むジャンルも役のタイプも千差万別。一般的には“グリコ・森永事件”をモチーフにした『罪の声』(2020年)で“キツネ目の男”を怪演した俳優として広く知られているのではないだろうか。彼がスクリーンに姿を現した瞬間、誰もがゾッとさせられたものである。水澤は手数の多い芝居をせずとも、佇まいだけでキャラクターを表現してみせる俳優だ。だが朝ドラは映画と比較すると、より分かりやすい演技が求められる。全身を扱った演技が見られることだろう。 第13弾の新キャスト発表時に制作統括の福岡利武は「水澤さんは、本当に難しい役どころです。悪いことをしても、どこか悪人でない、そんな微妙な芝居を絶妙に演じてくれています」と水澤の演技について語っている。本当に難しい役どころである。先述したように小田島が背負うものは大きいし、スズ子たちとの関わり合いをどう表現するのかによって、これからしばらくの『ブギウギ』の印象は変わってくる。その声からも極悪人でないことが伝わってきたように、水澤は視線や仕草といった細部に小田島のキャラクターを乗せてくるはず。そしてここでの水澤のパフォーマンスは、また別のドラマ作品へとつながっていくはずである。
折田侑駿