「お前に社長なんかできる訳がない」新海誠と肩を並べて怒られていた男が、日本有数のゲーム会社で社長になったワケをお酒を飲ませて訊いてみた
ゲーム業界の人間とお酒を飲みながら、居酒屋のノリでぶっちゃけ話を聞き出す新企画『ゲーム人生酒場』。先日、動画版を公開して多くの反響を頂いた本企画だが、「テキストで読みたい!」という声を多数頂いた。 本稿では、動画の全編と後編をまとめた一本の記事として公開。いつもの(?)の電ファミのインタビュー形式で読みたいという人は、ぜひ目を通してみてほしい。 『ゲーム人生酒場』画像・動画ギャラリー 「ゲーム人生酒場」の初回は、1981年に創業し現在に至るまで英雄伝説『軌跡』シリーズや『イース』などの名作を世に送り続けているゲーム開発会社「日本ファルコム」の社長・近藤季洋氏にお酒を飲ませ、「ぶっちゃけ本音トーク」を聞きだしていく。 聞き手/喜多山 浪漫、TAITAI ■「お前に社長ができる訳がない」からスタート 喜多山 浪漫氏(以下、喜多山氏): お疲れさまです。 今回は第一回なので、この体が正しいのかどうかあまり分かっていない挑戦的な企画となっております。基本的には、飲み会だと思ってください。 ざっくばらんに喋っていただいて構いません。 近藤 季洋氏(以下、近藤氏): 本当に?(笑) 喜多山氏: そういう雰囲気から出てくる他にはないような内容のお話ができると思っています。 近藤氏: はい、わかりました。 喜多山氏: では、趣旨はお話ししたところで質問に移ります。 近藤さんが若くして社長に抜擢された時のことですが、日本ファルコムといえばPC黎明期からの老舗メーカーじゃないですか。 どういうふうに社長になる話が回ってきて、それにどう答えたのか伺わせてください。 近藤氏: 僕が代表に選ばれたのって32歳の時なんです。若い時ですよね。 もともと、前の社長が2代目だったのですが、大病を患い代表の方の座をおりないといけない状況になりました。 僕はその年に取締役になったばかりだったので蚊帳の外というか、「自分には関係ないことだろうな」って思っていました。 当然、そのほかの上場した時から役員である方の誰かが引き受けるだろうと思っていましたが、役員の一人から「お願いできないか」と急に話が降ってきました。 喜多山氏: 日本ファルコム創業者の加藤会長からではなく? 近藤氏: 当時、加藤は代表権がありませんでした。株主ではありますけれども。 喜多山氏: そうなんですね。 近藤氏: 「理由は何ですか」と聞いたんですけど、「バランスがいいからだ」という風に言われたんです。 僕が今までやってきた仕事として、開発の仕事に行きつく前にいろんな部署を経験してはいました。 ゲームを作るだけじゃなくて、マニュアルを作ったり、販売関係のこともやったり、パブリッシング的なところも担当したり、開発と販売の繋ぎ役もやっていました。 喜多山氏: さまざまな部署を経験したことで、全体を見通せるようになったのですね。 近藤氏: そうですね。 そういう中でお願いをされて、「やったほうがいいのかな」っていう気持ちはあったんです。 でも、不安のほうが大きかったんですよ「やれんのか?やれんの?」って……。 喜多山氏: 当時は、32歳ですからね。 近藤氏: 32歳ですよ!なんにもわからないんです。 本当にゲーム作りしかやっていなくて、名刺をどういう方向で相手に渡すかもわからないのに、社長を引き受けていいのかと(笑) 喜多山氏: それ、新卒の時にやるやつですよ(笑) 近藤氏: そうそう。だから、「社長をやれ」って言われた後に新卒が買うようなHow to本を買ってきて、「そっか、コートは建物の外で脱ぐんだ」とか。そこからだったんですよね。 喜多山氏: そうなんですね。 TAITAI: その時の会社の空気感は、どのように感じられましたか? 近藤氏: 会社も全体が戸惑ってるのがよくわかりました。「え?近藤が?」みたいな。 役員は当然、僕より全員その時点では年上です。社員もほぼほぼ、先輩たちはみんな年上なので、「お前に社長ができるわけない」って直接言ってくる社員もいた(笑) 一同: (笑) 近藤氏: でも、それはその通りなんですよ。 僕もそう思ってましたし、一瞬は腹も立ったんですけど、冷静に考えてみると「そりゃ不安だよね」と思い直しました。 折しも、その時はPCパッケージの販売が難しい状況で、ずっとPC向けにソフトを開発してきた日本ファルコムがいよいよコンソール機、コンシューマ機に舵を切らないといけないタイミングでした。 でも、社長は32歳の若造ですから、社員が不安になるのは当たり前ですよね。 年配の先輩からも「骨を埋める覚悟で来てますけれど大丈夫でしょうか」と昇給面談の時に直接言われました。 ■良い物を作るだけでは売れないことを痛感 近藤氏: PSPとかのタイトルをちょうど供給し始めた頃だったんですけど、1本目2本目…最初は『空の軌跡』が本当に売れなくってですね……。 本当に不安な中で、「もうとにかくやるしかない」っていう状況で一生懸命やっていた記憶はあります。 開発の頃はゲームを作るだけで売ったことがないので、売りにいかないといけない。 そこで、流通の大手さんのところに行ってゲームのプレゼンを行なっていました。 今までのファルコムはPCソフトとしての実績がありますので、その数字をもとにネゴシエーションをさせていただくんですけど、「社長、PCパッケージってもう終わりですよ」って直接言われたんですよね。それがすごくショックでした。 喜多山氏: それがきっかけでPSPに参入したみたいなところもある? 近藤氏: それもきっかけの一つです。でも、同時に創業者の加藤と話をした時に「ウチだけがいつまでも無事だとお前思うなよ」って言われたんですよね。 ファルコムって社員全体がいつまでもPCでゲームを作っていていいっていう雰囲気で、「うちは聖域だから」みたいな甘えがあったんですよ。 喜多山氏: その雰囲気を感じた加藤会長は「このままじゃまずい」という風に思われていた? 近藤氏: 思われていたと感じています。でも、当時の僕はその辺の感覚がピンときていませんでした。 その時に僕がリリースしたタイトルは『ツヴァイII』っていうタイトルだったんですけれど、これがファルコムの歴代のゲームソフトの中で最低の記録を更新したんです。 TAITAI: でも、ゲームの出来自体はすごく良い印象を受けました。 近藤氏: ゲームは良かったんですね。それだけにショックだったんです。 作り手としては、「いいゲームを作ればなんとかなるんじゃないか」と思っていたのが、そうではないと実感しました。 TAITAI: その時の加藤会長の発言で、「これが一番悲しいことだった【※】」と仰っていたことを覚えています。 近藤氏: そうなんです!よく覚えていらっしゃいますね(笑) いいゲームを作ったのに売れないっていうのが一番悲しいし、その次に悲しいのは「良いゲームだと思ってないのに売れちゃった」ことだと、加藤は言ってました。 喜多山氏: 実体験としてもそのような経験をお持ちなんでしょうね。 今、加藤会長の話が出たので、加藤会長のお話を聞きたいんですけども、おそらく創業者の加藤会長の影響というのは少なくなからずあると思っていて、近藤社長と意見がぶつかることはありませんか? 近藤氏: あまりないですね。 喜多山氏: 本当かなぁ?(笑) ■そもそもゲームクリエイターになるつもりはなかった 近藤氏: あの……僕、そもそもゲームクリエイターになろうと思って入社してないんですよ。 喜多山氏: あ、そうなんですか。 近藤氏: 経理をやろうと思って入社しました。 喜多山氏: では、最初は元々ゲームを作るつもりで来たわけじゃなかった? 近藤氏: いや、ゲームを作らせてもらえるならすごく嬉しいことですけど、プログラムの勉強してたわけじゃないですし、絵描けるわけでもないし、音楽ができるわけでもない。 「何もできないのに、ゲームが作れるわけない」って思ってましたね。 そんなある日、「シナリオを書いてみろ」と言われて、自分で初めてシナリオを書くようになりました。 喜多山氏: そうおっしゃったのは加藤会長ですか? 近藤氏: そうですね、はい。 その前に、「やってみるとしたら何がやりたい」と当時の山崎社長に聞かれたことがありました。 多分、加藤会長にそこを拾って言っていただいたのかなと思います。 ■新海誠も入社時は「Photoshopのコピー&ペースト」しか知らなかった TAITAI: 当時の日本ファルコムの中で、要はクリエイターじゃない人がゲームの制作に着手する事例は他にもあったのですか。 近藤氏: やっぱり新海誠【※】がそうですよね。 彼も入社した時には「Photoshopのコピー&ペーストしか知らなかった」って言ってました。 そこからパッケージをデザインしたり、ゲームの中身を実際に作るようになり、ゲームのディレクションも途中までやってたこともありました。 ※新海誠氏 日本のアニメーション監督。代表作は『君の名は。』『天気の子』『星を追う子ども』など。大学在学中は日本ファルコムでアルバイトとして働き、後に正式入社。『英雄伝説 ガガーブトリロジー』『イースIIエターナル』などのオープニングムービーを制作。現在は日本ファルコムを退社している。 近藤氏: 彼自身、ゲーム制作の経験があったわけではなく、やれるだろうと思われたら機会を与えてくれる場ではあったんですね。 与えられた場で力を発揮すれば、それ以降は何も大して言われなくなり、「やってていいのかな」と思いながらゲームを制作していた覚えがあるんですよ。 喜多山氏: 加藤会長と話す頻度は少ないと聞いたことがあります。 近藤氏: そうなんですよ。 入社して2、3年は新海誠と1日交代おきくらいで呼ばれて、「今日は近藤君の日だよね」「今日はあなた(新海誠)の日ですよね」という、交代で怒られるような感じでしたよ。 喜多山氏: それって、社長になる前の話ですよね。 近藤氏: なる前の話ですね。 なった後は、極端な頻度はないです。ほぼ話さないです。 喜多山氏: 逆に距離を置かれたのかもしれないですね。 近藤氏: 代表になった後は、おそらく気を使って声をかけないようにしていただいている気はします。 新海誠も、辞めた後に「勉強になった。あれがあったから今があります。」と、良い方に言ってくれています。 ■近藤社長と新海誠氏の根底にある心象風景は『イース』から 近藤氏: でも、根底にあるのが『イース【※】』なんですよね。 ※『イース』1987年に発売されたアクションRPG。第1作目から30年以上に渡り続編が制作され、今もなおファンに親しまれている。 喜多山氏: 『イース』? それは近藤さんの根底ですか? 近藤氏: 僕と新海誠の共通点として、デザインチームに僕も彼も所属していました。 そこに、僕が作ったウェブサイトがあったんですよ。それをアップしたら新海誠が「自分がデザインしたのかと思った」と言ってくれたのです。 そこで、彼との共通点としてセンスの根底にあるものとはなんだろうと思い、二人で考えていくと『イース』から受けた心象風景的なものがお互いに似ているという話になったんですよね。 『イースVIII』が『君の名は。【※】』にちょっと似てるとユーザーさんの間で話題になっていたことがありまして、美術とか、世界観とかヒロインの立ち位置であるとか。 多分、そういう根底が同じだからなのかなって、まあ本人とは気持ち悪いからそんな話は絶対しないんですけど(笑) 喜多山氏: 雲とか空…背景とかはかなり共通してる雰囲気あるなとは感じますね。 近藤氏: それは昔のファルコムのゲームのオープニングとかゲームのアートから受けた“何か”です。 それが自分の中で醸造されて出てくるもので、そのものを真似てるわけじゃないですけど、“そうなる”んです。 喜多山氏: まあ自然な話ですよね。源流を考えたら一緒なんですから。 近藤氏: そうなんですよね。 喜多山氏: 似ているのは当たり前と言いますか。 近藤氏: 当時のものはドット絵じゃないですか。 ドット絵なんですけれど、今、自分たちの技術でやったらこうなるよねっていう物をパッと出してみると、たまたま同じだったみたいなことってあるんですよ。 喜多山氏: 育ちが一緒なんで、アウトプットが一緒でも別におかしくないですよね。 近藤氏: そうなんですよ。 僕じゃなくて新海が社長だったんじゃないかなと思います。 喜多山氏: そのまま残られてたら…ってことですよね。 早すぎた社長はしなくて済んだかもしれないですね。 その次は近藤さんがやると思いますけども、新海さんが社長だった世界線はあったかもしれない。 近藤氏: あったかもしれないですね。 ■メディアに挨拶に行ったら、最初は2時間怒鳴られた 近藤氏: 代表になったときに「まずやろう」と思ったことは、メディアの方たちへの挨拶でした。 日本ファルコムはメディアの方たちに自分から挨拶に行くことがありませんでした。 そこにいたるまでの経緯は僕はわからないんですけれど、作り手としてはもっともっと売り込んでいって「一緒に色々やればいいのにな」って気持ちがありました。 喜多山氏: その時のメディアの反応はどのように返ってきましたか? 近藤氏: 色々ありましたね。もちろん温かく迎えてくださるところもありましたし、最初は2時間ぐらい怒鳴られ続けたりとか(笑) 一同: (笑) 近藤氏: でも一通りお話が一巡したあとに「私になってまた、頑張らせていただきますので」というお話をさせていただいたら「それはじゃあ、わかったよ」という形でおさまり、その会社様とは今でも引き続き取引をさせていただいています。 ■挨拶するだけで生まれたての小鹿状態に 近藤氏: でも、社員の方たちも「よく見守ってくれたな」って思うんですよね。そういう意味では感謝してるんですよ。 社長になった年に、会社が夏季休暇に入る時に社員を集めて、総括みたいな挨拶をするんですけど、その時にも脚がガクガクと震えていました。 近藤氏: 同期から「小鹿みたいだよ」って言われました(笑) 自分自身がそもそも、学校の生活の場でリーダーシップを取るような人間じゃなかったですし、どちらかというと文化祭みたいなものも非協力的でサボっており、皆を導くようなタイプではありませんでした。 喜多山氏: じゃあ、学校とか部活とかで委員長とか部長みたいな経験ってのはなかったわけですか? 近藤氏: ないかもしれません。学級委員……代表委員くらいはやったことあります。 TAITAI: 代表委員とは何ですか? 近藤氏: 議員のような役割ですね。 喜多山氏: 議員?(学校で)聞いたことないです。 近藤氏: 議員は学校の議員集会に出ていろんな学校のルールを話し合ったり決めたりとか、問題が出たらそれについてどうするかという役割です。 喜多山氏: そんなことをする学校があるんですか。 近藤氏: ありましたね。愛知県にはありました。 喜多山氏: 基本的にはリーダーシップを取るみたいなことが幼い頃から得意だったわけではなかった? 近藤氏: まったく……どちらかというと、苦手でしたね。 人とコミュニケーションしたりお話をこうやってするのも最初はすごく苦手で、どんな話をしようかってちゃんとまとめてからでないと行けませんでした。 人前に立つ場に行って、パッと話できる方が本当にうらやましい。 ■ファルコムはミステリアスで、こわい? 喜多山氏: 今までは超老舗メーカーで怖い人たちがいたけれども、近藤さんの代になって言いやすくなり、さまざまなことを言ってくる人たちもいるのではないでしょうか。 近藤氏: どうなんですかね。 いまだに。日本ファルコムのイメージってミステリアスみたいな扱いをされます。 「どうやってゲームを作ってるのか聞いたことがない」とか、「どういう人たちなの?」など。 喜多山氏: 他の企業さんから「ファルコムさん紹介してほしいんですけど」って聞かれるのですが、いや、「自分らで話しに行ったらええやん」って話なんですけど、どうも何か…ちょっと……。 近藤氏: 怖いって思われてる? 喜多山氏: 怖いというか、“失敗できない感”はあるかもしれないです。 変な提案をしたら、もう二度と付き合ってもらえないんじゃないかと。 近藤氏: ああー……。 喜多山氏: 多分、相手が勝手に緊張してるんじゃないでしょうか。 近藤氏: 相手を緊張させてしまう雰囲気があるのかもしれないですね。 いいように考えれば、一種のふるいにかける機能を果たしているのかもしれないですし、悪い方に言えば、気軽に声をかけていただける機会を逃して損をしているかもしれません。 喜多山氏: 私は今のままでいいと思いますけどね。だって、開発者は開発に集中したいじゃないですか。 近藤氏: それはすごくあって、本当に開発を守る会社なんです。 喜多山氏: そうですよね。 近藤氏: 絶対に余計な仕事をさせたくない。「集中させろ」という雰囲気はすごいです。 喜多山氏: ですよね。それはすごく伝わってきています。 多分、そういうスタンスが自然と醸し出されているように感じています。 近藤氏: それを徹底するあまり、少し無愛想になってしまうところはあるかもしれません。 TAITAI: 確かに、メディアの立場からしても「取材を受けてもらえないんじゃないか」という雰囲気を感じています。 近藤氏: 僕は、その印象を変えたかったんですよ。 売上がいい時期があった会社ではあるので、それに甘えてるんじゃないのって僕自身が思ってた時期がありました。 これからオリジナルの新作を出す上で、「メディアの取材は受けましょうよ」と打ち出して僕らの代からどんどん売り込んでいかないといけないと思いました。 挨拶するだけでも脚が震えるのに一生懸命頑張ってメディアまで行きました(笑) エンターブレインさんや当時の電撃さんを回ったり……そこだけは頑張りました。 喜多山氏: ふと、思ったんですけど、ファルコムさんは笑わないっていうイメージです。 近藤氏: あー、笑わないかもしれないですね(笑) 打ち合わせでも誰かが何か発言しても反応がないんですよ。 喜多山氏: 仲良くなったら今こんな感じで普通に笑うんですけれど。 近藤氏: 僕のイメージもあるんですかね。 前半は、近藤氏が齢32にしてファルコムの社長となり経験したさまざまな苦労や、社員や周囲の人々に支えられた心温まるエピソードや、新海誠氏の涙ぐましい努力の行程が垣間見えた。 後半では、近藤社長の失敗談から学んで定めたファルコムの方針や、クリエイターの世代交代について伺ってみた。 ■クリエイターの高齢化問題にはどう対処する? 喜多山氏: ちょっとお聞きしたかったこととして社員さんの離職率が低いってことは、平均年齢がすごく高くなっていってるんだろうなと勝手に思っているんですけど……。 近藤氏: 僕が入社した時から考えれば、相当高くなっています。 今は、30代半ばくらいが平均ではないでしょうか。 喜多山氏: では、高齢化することによって何か問題は発生してないのでしょうか? 近藤氏: あー……ゲームのディレクション的な部分であるとか、大元の思想みたいなものを生み出す人間が高齢化しているのはありますね。 でも、ゲームのプレイヤーの年齢層って、今は20代から30代のユーザーさんが多いと思います。 そこを、40代から50代のオッサンたちがいつまでも作っているのはどうなのかなと思うところはあります。だから、なるべく若い人たちに譲渡したいとは思っています。 喜多山氏: 自分の主観なんですけど、両方あっていいと思っています。 近藤氏: もちろん、両方あっていいと思います。 喜多山氏: ベテランは「負けるものか」と思って歳を取ってもやればいいと思うし、若手は「年寄りに負けるものか」と思って頑張ればいいと思います。 近藤氏: でも、先輩がずっと前線にいると、どうしても後輩としては遠慮が発生しますよね。 喜多山氏: そうですね。 近藤氏: 完全に先輩が退かないと「よしやろう」という思考にならないんじゃないかな。 僕の時は、先輩がスッといなくなっちゃった時期があり、自動的に「もう自分がやるしかない」というポジションになりましたね。シナリオライターになった時もそうです。 喜多山氏: いや、問題は結構そこにあると思ってて……。 辞めないと代替わりしないのってどうなんですかって話なんですよ! 近藤氏: (笑) 喜多山氏: やめたら、必ず誰かが出てくるんですよ。でも「それって健全なの?」って視点で考えると、先輩が辞めなくても代替わりって起きないの?と思うんですよ。 近藤氏: 今、その状況と戦っていますよ。そうじゃなくて、「先輩がいても行くんだよ」って啓蒙をしていかないとダメかと思って、若手で将来性のある人間にはそういう声をかけたりしています。 喜多山氏: 難しいと思うんですよね。 例えば、漫画の世界だと漫画家は独立した存在で、会社に所属しているわけではない。 でも、ゲームの場合はクリエイターが会社に所属している。 近藤氏: そうですね。そこはちょっと特殊です。 喜多山氏: エンターテイメントの業界としてはかなり特殊なんだろうなと思っています。 TAITAI: 残酷かもしれないですけど、クリエイターは新陳代謝をしていかないといけないんです。 おっしゃる通り、他のエンタメの業界ってクリエイターは結構変わって行かざるを得ない仕組みとか、圧力が常にありますよね。 喜多山氏: これ、言っていいのかわかりませんが、クリエイターって固定給を貰うサラリーマンじゃダメなんだろうなと思います。 TAITAI: ただ、何だろうな……。 ほかの漫画とか音楽に比べると、ゲームって規模が違いすぎるじゃないですか。 組織力や、ある種の人間関係も含めた“チーム力”が必要な局面がたくさんあります。 それを会社で作ることの重要さも一方であると思います。 近藤氏: 社員であり、クリエイターである人に対して社長がどこまで要求していいのか、僕はずっと悩んでるんですよ。 喜多山氏: というと? 近藤氏: 意志表明として「自分は世界でトップクラスになるために頑張ります」って言えている人に対しては「ガンガンやれ!」って言えるんですけれど、どっちか分からない方たちの方が多いですよ。 会社の中では、そうではない人たちにトップクラスのやる気を要求すると「いえ、そこまでじゃないんで」みたいなこと言われてしまったりとか……。 最初の面接では、みんないいこと言うじゃないですか。 入ってきてみて……「あれ?」ってなったりとか。 喜多山氏: あの時はああ言ってたよね?みたいなのはありますよね。 近藤氏: なかなか、今のご時世もあるじゃないですか。 喜多山氏: そうですね。 近藤氏: でもゲーム会社ってこう…もちろん、会社員だから。 世間一般的な規範の中でやるっていう所もありつつも……。 クリエイターって、スポーツのプロ選手みたいなところもあるじゃないですか。 「どっちなの?」と見極める判断には困っているんですよ。 自分は、できればプロ野球であればプロの選手であってほしいと思います。 チームの練習が終わったあとに、自分で筋トレしたりとか、食事量に気を使うことはプロであれば当たり前の世界ですよね。 でも、それを言うと「いやそれは違うんじゃないですか」という言葉が返ってきて、「ああ、そうじゃないんだ」と感じます。寂しさみたいなのがありますね。 “昔はやっぱり”……こういうと老害みたいですけれども、みんながみんなトップを目指すような雰囲気があって、そういう意味では今は普通になったなと感じる時がありますね。 喜多山氏: お金とか、ルールが絡んでくるとそうなりますよね。 近藤氏: 残業とかに対する意識は、特にそうだと思います。 喜多山氏: そういうことは関係なく、自分らが今やりたいことを追い求められるかどうかだと思います。 近藤氏: そういう場で、会社があるにはどうしたらいいんだろうと考えると、すごく難しい時代だと思っています。昔は、そんな難しいことなく残業なんかやりたいだけやっていました。 TAITAI: そうですね、泊まり込みで。 近藤氏: それが、「良かったよね」って言える時代だったんですよね。 で、そこで力をつけてきた人が今40になっても50になってもずっとやっています。 喜多山氏: でも、その時と「同じことをやりなさい」は違う。 クリエイターは、人に強制されてやることじゃない。 近藤氏: そうなんですよ。その時点でもうやれないですからね。 やれって言われた時点でやれなくなりますから。 喜多山氏: そうなんですよね。 やらされている残業とか、やらされてる徹夜なんてもう苦行じゃないですか。 苦行というよりはもう拷問ですからね。でも自ら率先していたら、それは結構楽しいことなんですよね。 近藤氏: そうなんですよね。 ■ゲームクリエイターの一般常識とプロ意識の乖離 近藤氏: ゲーム業界に僕らが入った時、給料とか気にしてなかったですね。 一般企業に行くより安くなることも分かってて入りました。 頼まれなくても残業していたし「出るな」と怒られても、このままのクオリティで出すのは嫌だと、「こんなモン出したくない!」と思い出社していました。 よく、社員とする話として締め切りが挙がるのですが、ゲームって締め切りが近けば近づくほど想定してなかったトラブルがあったり、クリエイター自身に「もうちょっと詰めたい」とか「時間が欲しい」などの事情が出てくるので、クリエイターの手から締め切りが逃げてくんですよね。 これを80%の力で逃げていく締め切りを追いかけていると、差が離れていく。 これが俗にいう、発売日延期ですよね(笑) そこで、100%で追いかけていくと今度は差はつまっていくけど、やはり発売日は伸びていきます。 120%の全力以上に力を注ぎ、「予定通り!」ということをやれないと納得のいくゴールはできない。 それをやっていく時には、自分の力も120%出さないといけません。 その仕組みを一般的なルールで進めてしまうと、なかなか終わらない状況が発生します。 喜多山氏: 結局、面白い面白くないとか、そういう世界の話なので、最後はとことん熱量込めるしかないんですよね。 近藤氏: 会社の中でも社員の間で二極化してきていて、一般的なことを主張する人と、よりクリエイターとして追求する人たちで乖離が出てきています。 要は、相反するもので法律的には一般的な主張が正しいし、プロとしては、追求する主張が正しいというせめぎ合いです。 では、そういう中でゲーム会社の社長はどうしたらいいか、なかなか悩ましいと思いませんか? 会社の中では、「プロを目指したい」という方と「家庭を守るためにやってるんだ」という方、別にどちらも間違いではないですよね。 喜多山氏: その人を独立させてあげてフリーにして、そのぶん報酬をしっかり上げるというのはいかがでしょうか。 近藤氏: なるほど。 喜多山氏: 今、適当なことを言いましたけどね。 TAITAI: 先ほど、近藤さんがおっしゃっていた「80%だと永遠に終わらない」という話は、潤沢な予算、潤沢な期間が設けられているプロジェクトでも必ずしもうまくいかないのでは? 近藤氏: そうですね、僕は全然自信ないです。終わらないんじゃないかって……。 TAITAI: モノづくりが終わらない現象が発生してしまうのは、なぜだと思いますか? 近藤氏: 実際に「ここで終わり」と決めてないだけじゃないですか? 逆に、終わりと決めることで開き直って決められることがたくさん出てきます。 そこから生まれる工夫が上手くゲームの仕組みに結びつく場合もあります。 僕らは、発売延期ということはあまりないんですけれど、開発は区切りよく「そこで終わり」って決めてます。 でも、その中で手を抜かずに開発をしてきています。 ただ、同じように潤沢な期間と予算が与えられたら僕らもきっと終わらないと思いますよ(笑) 喜多山氏: 近藤さんから聞いた名言だと思ってるんですけど……。 近藤氏: なにか言いましたっけ? 喜多山氏: 私が前職の時はちょうど発売延期が多かった時期で、名古屋でお2人でセミナーやった時に話題になったことです。 日本ファルコムは、必ず「毎年、何月に」という形式で発表されてたじゃないですか。 なんで納期を守れるの?ということを聞いたんですよ。 そしたら「終わりを決めてる」って言われたんです。 近藤氏: 「終わらせるって決めてる」と言いましたね。 喜多山氏: かっこいいー、と思って。 近藤氏: それは、最初に習ったことで……。 ■最初の大失敗は『空の軌跡』。大切なのは、“終わらせる意識”だった 近藤氏: 僕は最初、大失敗したんですよ。それが『空の軌跡【※】』で2年以上かかって「半分もできてない」って言ったら「もう半分で出せ」って言われたんですよ。 その時には、「なるほど」って思ったんです。 確かに、僕らは何も考えないまま制作していたら2年も経ち「半分しかできてません」と言われたら、確かにそりゃないよねって思います。 喜多山氏: 完成度が半分でも、1本に足りるボリュームだったっていうのもあるでしょうけどね。 近藤氏: それも、わかってないままやっていたことだったんですよ。 だから、一回終わらせて、次を頑張ればいいじゃないということになりました。 『空の軌跡』はそれで2本に分かれたんですけど、その時に思ったのがやっぱり終わらせることを決めてなかったなと。 「終わらせる」と決めたら、いろんなことが決まるんです。 「タイトル決まってないな」「タイトル画面そういえば仮のままだ」など、決まっていないなら完成させようという風に途端にみんなが動き始めて、終わりに向けて集束していく。 「終わらせるぞ」という雰囲気にならないと、そこに向かっていかないんですよね。 いつまでも開発して良い雰囲気が常態化してしまうというか。 喜多山氏: でも、「9月に発売したいから7月に終わらせろ」と言うこと自体は経営者側のスタンスからしたら言えるわけじゃないですか。 そこは、開発からしたら「えー7月!?それじゃ足りないよ!」とか、まだまだこれだけやりたいという話が出てもおかしくないと思うんです。 その中で、ちゃんと商品化できるレベルの物に持っていかれているわけじゃないですか。 近藤氏: はい。 喜多山氏: そこの開発スタッフ全員のモチベーションがちゃんと保てるというのはすごいなと。 近藤氏: 全員は保てていないと思いますよ。多分、いろんな考えがあるはずです。 ただ、メインのメンバーに関しては理解してくれてるんじゃないかなとは思ってます。 喜多山氏: そこもプロ意識ですよね。 近藤氏: 終わらせることを決めたほうが、むしろ楽であると分かっていれば、そうなるんです。 そこを理解できる仲間を増やすしかないですよね。すると、「じゃあ、この期間でやれることをやろう」という雰囲気になります。 喜多山氏: そうそう、そこが大事で、そこを両立できるのはゲーム開発現場ではあまりないんだろうなと思っています。 発売日を伸ばすか、納期を守るけれどクオリティが甘くなるか、どっちかになっちゃうんじゃないかと。 納期を守った上でクオリティ担保してるというのは、実はかなり凄いことだと思うんですよ。 近藤氏: 僕らは、入社してから既存タイトルのリメイクがずっと続いてたんですが、やっぱり自分たちで新作を作りたいという意思もありました。 では、新作を作るにはどうしたらいいか。会社との折り合いが絶対に大事だと思いました。 まず、信用してもらわないといけない。 たぶん、信用されてないから作らせてもらえないんだろうと、『イースI』『II』のリメイクを作り、次も『III』を作って……でも、待てよって思ったんですよ。 『III』じゃなくて『V』で止まってるから、『VI』が作りたいけど、どうしたらいいのだろうと思いました。 それをいつまでもやられてたら嫌だから、じゃあ自分たちでリメイクを終わらせるって決めて、新作を開発しようよ、というところで進めていきました。 そういう経験があって、その時のメンバーが今のファルコムのコアメンバーなので、終わらせる意識が浸透しているのかもしれない。 ずっとオリジナルを最初からやらせてもらえる立場にあったら、もしかしたら甘えてたかもしれません。 喜多山氏: なかなか、一朝一夕には真似できないですね。 近藤氏: でも嫌ですよ、今でも毎回ヒヤヒヤですよ。 20年もやってれば、ゲームの作り方って上手くなるって思うじゃないですか……。 まったく上手くなってると実感できないです。毎回、同じことを言ってる気がします。 ■「己惚れるんじゃないぞ自分!」身を引き締めるために空手家になった 喜多山氏: 全然、違う話をしますけど、近藤さん、空手家じゃないですか? 近藤氏: 多分、あんまり知られてないと思います。 喜多山氏: そうですよね。雑誌のインタビューとかでもやってないと思いますけど、実際に空手家じゃないですか。なぜ、空手なんですか? 近藤氏: 初めたきっかけは、長男が始めたからでした。 32歳で社長になり、36歳のときに一段落した時期に空手家になりました。 そうは言っても、何かを為したっていう手ごたえが大きくあるわけじゃなく、「己惚れるんじゃねえぞ自分!」という気持ちがあったんですよ。思い上がっちゃダメだなって。 それで、道場に行くとすごくシンプルなんですよ。 帯で実力が色分けされてて、最初は白帯から始まるんですね。 白帯は最初、末席に座るじゃないですか。 小学生とか中学生とかよりも末席じゃないですか。「これいいな」と思って(笑) 一同: (笑) 喜多山氏: 外の世界に行ってみたら、自分の存在が客観視できたということですね。 近藤氏: そう、自分ってそんなもんなんだよって。 妙にそれが面白くって、最初からゼロからスタートして……。 自分は、ゲームが好きじゃないですか。帯が色変わってくんですよ、上手になると。 この仕組みはゲームでいうレベルアップじゃないですか(笑) 近藤氏: あと、道場っていう社会の面白いところとして明確に区別がされてるところですね。 先輩たちが後輩に教えないといけないときにも「ただ叱るだけじゃダメだよ」と言うんです。 叱る時も、「まず一個褒めてから注意しなさい」という決まり事があり、ものすごく基本的なものがそこに凝縮されてる気がしたんですよ。 加えて、僕がお世話になってる道場の道場主の先生が僕より2歳年下なんですけど、すごい立派な方で、考え方が昭和的なところがありました。 その考え方は古いんだけれど、今の子たちに「でも重要なんだよ」ということをしっかり伝えていく先生なんです。 そこを気に入って惚れたっていうところもあると思うんですよね。 僕もこんなに続くとは思ってなかったんですよ。 喜多山氏: 近藤さん黒帯なんですよ。黒帯って、十人組手【※】しないと黒帯取れないんです。 近藤氏: 十人組手やりました。 喜多山氏: ボコボコにされますよね。 近藤氏: あれ、根性試しですからね。 1対10なんて真面目にやったら敵うわけないんですよ。 でも倒れたらダメなので、まず倒れないっていうことと、膝も着かないし手も着かない。 そこに向けて準備期間が1年ぐらいあったんですけど、その期間だけはちょっとアスリート並に特訓をしていたと思います。 週2回は稽古で、週2回はジム行ってウェイトやって体重増やして、黒帯取った後にすごい強面の先生たちに挨拶させていただいた時に、お一人「僕、リリア【※】が好きでした」っておっしゃってくださった先生がいて……。 一同: (笑) 近藤氏: 「押忍、ありがとうございます!」って(笑) あ、そういうこともあるんだなって……その後も試合会場で審判やってたら「予約しました」って囁いてくれる師範の方がいたりとか。 「いてくださるんだ、この業界にも」って、そういう喜びはありましたね。 喜多山氏: それはほっこりしますね。 近藤氏: そうですね。「他の先生には黙っといてください」とか(笑) 喜多山氏: まあそうですよね。 どこかにファンがいますよね。 ■いつまで、ゲームクリエイターであり続けるか 喜多山氏: まだ私のメモに残っているんですけど、近藤さんに生涯現役でクリエイター、 シナリオライター続けてほしいんですよ。 近藤氏: どれぐらい続けるかまでは、わからないですね。 喜多山氏: 「何歳までやりますか」という質問になっております。 近藤氏: でも、60歳までは間違いなくやります。 喜多山氏: おっ!いいじゃないですか。 近藤氏: いま48歳だから、あと12年。 12年って、多分あっという間だと思うんですよ。 喜多山氏: 12本は出るわけですね! 近藤氏: なんで年間1本のペースなんですか(笑) もうちょっと落とさせてください。 喜多山氏: じゃあ2年だとして、6本は出るわけですね。 近藤氏: ……もう6本しか作れないんですね……。 喜多山氏: 確かに6本って考えたら、「もっと見たいです」って話になりますもんね。 近藤氏: 今まで作ってきた数を考えれば全然少ないですからね。 30本以上やってるはずなんで。 喜多山氏: 6本は寂しいと思いますよ。 近藤氏: もっと小さいものも作ってみたいですけどね。 そういう意味じゃ、RPGのドカッとしたものが大きいので、もっとサクッと遊べる『イース』でもいいんじゃないかと。 喜多山氏: RPG以外のジャンルにも興味あるんですか。 近藤氏: シミュレーションRPGとか僕は苦手だと思うんです。 プレイするのも苦手なので、やってみたいとすればアクションですかね。 喜多山氏: どういうアクションですか。 近藤氏: そんなの、まだわかんないですよ。 でも『イース』は割と爽快感のあるサクサク系なので、別のアクションをやってみたいというのはあります。 だいたい新しいこと考えるのって、追い込みの時期ですよ。 現実逃避して今の『イースX』の内容も『イースIX』の追い込みの時に思いついた内容ですけど。 喜多山氏: 辛くなってくると違うことを考え始めるんですよね。 近藤氏: そうなんです。全然別のストーリーを書き始めたりとか。 喜多山氏: でもそれがまた次の仕事につながったりするんですよね。 近藤氏: なります。 喜多山氏: 終わりがないんですよね。 ■“ゲームを作り続ける場”をファルコムにつくりたい TAITAI: そろそろ、最後の質問に移らせていただきます。 喜多山氏: 近藤さんの浪漫を語っていただきたいんです。 近藤氏: 浪漫か……。 自分自身がゲームを作り続けるのももちろん夢としてあったんですけど、今は「ゲームを作り続ける場を作りたい」って思っています。 僕がゲームが好きな理由っていうのはゲームの持つ双方向性みたいなものがあるんですよ。 ゲームには、小説とか映画では実現できない部分があって、自分が世界に入り込んで自分ならではの軌跡をたどり、エンディングに辿り着くというものがあります。 そこで得られた体験というのは、ゲームのタイトルによっては一生忘れられないものになると信じています。 その現象を僕らはゲームの黎明期から見てきて、ゲームの基礎から見てきているのでゲーム全体を見ることができる。 今の若い人たちっていうのはゲームが大きなビジネスになってしまっていて、ゲームそのものも大きくなったのでいきなり「全体を見なさい」と言われても、そういう機会が与えられることもない。 「どうやったらその全体を見れるようなとこに辿り着くの?」というスキームってハッキリとはまだないじゃないですか。 自分たちがやってきたことを次世代へ繋いでいくためにも、そういうことを知れる場をファルコムの中で実現したいなという浪漫があります。 そういう意味では、人を育てたいです。 人のことは今まではどうでもよかったんですけど、最近になって初めて思いはじめて……自分がゲーム作れるってのが良かったんですけど。 喜多山氏: 48歳にして、人を育てたいと。 近藤氏: そうですね。 喜多山氏: 自分がいなくなったら『イース』シリーズが終わるみたいなのは嫌ですよね。 近藤氏: まあ終わってもいいんですけど。 喜多山氏: いいんだ(笑) 近藤氏: 僕は、先輩から引き継いできたものが多いんですよ。 僕が終わる時になってやっぱりまだ支持を受けているようであれば、誰か「やりたい」と言える人間がいれば引き継いでほしいし。 別に、『イース』じゃなくてもいいんですよ。 僕らが作ったゲームをプレイしてくれて「あ、自分もこういうものが作りたい」とか、そういうふうに思ってくれたモノでいいんです。 でも、なかなかそういう場がやっぱりなくなってきているので、どうしたらそれができるのかなって思います。 多分、どこのメーカーさんも一生懸命考えているところだとは思うんですけど、コンシューマーゲームのゲームってやっぱコンシューマーゲームにしかない魅力があると思います。 ソーシャルゲームにもないし、それはオンラインゲームにもない。 それで育った人間としては、その文化を絶やしたくないですよね。 コンシューマーはまだまだよくなる余地もあって、この前、日本では廃れてきちゃったものが電ファミのHoYoverseさんとの対談であったように、中国の方に拾ってもらって「いや まだまだいけるでしょ!」って。 喜多山氏: コマンドRPGの記事ですね。 近藤氏: そうですね、はい。 喜多山氏: その話になってくると、いま、人を育てる側のものの話でしたけど「いやいや、まだコマンドRPGやれるぜ」っていう。別の浪漫が出てきましたね。 近藤氏: それはまた別の話になりますけど、やってくれる人がいてもいいと思うんですよね。 割と若い人でも昔のクラシックなゲームをやってる人ってチラホラいて、「何がいいの」と聞くと、僕らがその当時「いいな」と思ってたことを言うんですよ。 だから、根源的なゲームの面白さってのは不変だと思うんです。 喜多山氏: そうなんですよね。 近藤氏: そこが日本国内で断絶してしまうのは怖いです。 喜多山氏: なんかバッサリ「古い」とかっていう言葉で片付けていい話ではないと思うんですよね。 近藤氏: 「古い」って言われた時点で皆が諦めちゃってちゃんと作らなくなった。 そして、魅力がなくなった。それを「古い」って言ってるんだと思うんですよ。 それを古いと一括りにしたくないですよね。 喜多山氏: そうですよ、だからレトロゲームとかでも未だに遊んでも面白いじゃないですか。 普遍的な面白さがあるわけです。 近藤氏: 映画もすりきれそうなフィルムで昔のものを見ても、面白いものは面白いじゃないですか。 喜多山氏: そうなんですよね。だから「古い」っていう片付け方はちょっとね。 近藤氏: 悪意を感じますよね、諦めちゃってる部分もあるでしょうし。 喜多山氏: いや、まだまだ行けますよっていう部分もありますよね。 近藤氏: でも、一時期流行ったものがパッと廃れて、時代を経て形を変えて出てくると「やっぱり面白い」ってなるじゃないですか。 ゲームも、もう何十年も続いているとそうなりますし、ファッションも曲もそうだったりして。 喜多山氏: 一周回ってみたいな話が、全然あると思うので。 近藤氏: そうなんですよ。 それも、途絶えてしまうと回らなくなってしまうので、循環させていきたいです。 だから、ファルコムって自分がゲームを作る場だったんですけど、それだけじゃなくってゲームを作りたい人がゲームを作る場であってほしいなって思いますよね。 それをやり続けるには、一定のクオリティが必要だったり、いろんなものが要るじゃないですか。 そういうところから、きちんと捉えてもらって羽ばたいていける場になると一番嬉しいですよね。 それが自分なりの浪漫かもしれないですね。 喜多山氏: 今日はどうもありがとうございました。 近藤氏: ありがとうございました。
電ファミニコゲーマー:TAITAI
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