生活保護世帯の半数超が「高齢者」、費用を負担するのは主に「若者」…日本はすでに「国民皆年金」ではない【経済学者が解説】
増加する高齢受給者
近年では、非正規労働者や就労による自立が困難な高齢者の増加、経済低迷のあおりを受けた失業・収入減などから、国民の低所得化が進んでいる。そのため、生活保護を受給せざるを得ない人たちが急増している。 図表2を見ると、バブル崩壊以降、生活保護世帯数はほぼ一貫して増加、リーマン・ショック後には急増し、2020年度では163.7万世帯となっている※3。 ※3 確かに、高止まりが続いているものの、所得がなくなっても最低限度の生活水準を国が面倒を見るという生活保護本来の機能が発揮されているとも解釈できる。 問題は、本来は年金で生活を送るはずの高齢世代が年金ではなく生活保護に大挙して流入してきていることだ。生活保護世帯全体に占める高齢世帯数は、2016年には全体の過半数を超え、2020年には、90.4万世帯と生活保護世帯数全体の55.2%にまで増加している※4。 ※4 高齢世帯の被保護世帯のうち、単身世帯は83万世帯、50.7%と高齢貧困世帯の問題は単身世帯の問題であることが分かる。 本来、日本は国民皆年金なのだから、高齢者の老後は年金が支えるはずだ。しかし、実態は少々違うようだ。生活保護が、低年金や無年金の高齢者の駆け込み先になっている現実がある。 こういう事態を見ると、筆者は、現在、日本が誇る国民皆年金が崩壊し、機能不全に陥りつつあるのではないかと心配になるのだが、「未納なんて問題ない」と嘯(うそぶ)く国や年金の専門家にはそうは映っていないようだ。不思議としか言いようがない。
支給額は生活保護が国民年金を上回る
では、なぜ貧困高齢者は、生活保護に流れるのだろうか。 その秘密は、国民年金と生活保護の金額の違いにある。国民年金は、先にも見たように、モデル年金額では6万4816円なのだが、現実には、納付期間が40年に満たない者も多く、平均受給額は5万6358円となっている。夫婦二人の年金額は、ともに国民年金であるとすれば、単純に2倍した11万2716円でしかない。 一方、生活保護費は、年齢、家族構成、健康状態、居住地などによって支給される金額が異なるものの、例えば、65歳の高齢単身者の場合、東京都区部等大都市(1級地-1)に居住する者は月額13万580円、地方郡部等非大都市(3級地-2)に居住する者は10万1640円である。夫婦ともに65歳の場合は、順に18万3916円、14万9249円となる計算だ。 なぜ国民年金と生活保護で給付水準に大きな違いがあるのだろうか。生活保護の給付水準は、日本国憲法が保障する最低限度の生活を送るのに必要な費用から算出されているのに対して、国民年金の給付水準の根拠は必ずしも明確ではないものの、基礎年金が創設された1985年当時の高齢者の平均的な基礎的支出額(食料費、住居費、光熱費、被服費)や高齢者の生活扶助費の水準とされ、それ以降は賃金の伸びに応じて増額されている。 この結果、一人暮らしでも、夫婦世帯であっても、生活保護の方が、国民年金より、モデル年金でも、実態の年金額でも、支給金額が上回ることとなり、資産がない貧困高齢者が生活保護に流れている。 高齢者の生活保護世帯数は、ほぼ一貫して増加しており、生活保護世帯のうち全体の半数を超えている。こうした現状は果たして「国民皆年金」と呼べるだろうか。 しかも、こうした国民年金から弾き出された高齢者の面倒を見させられるのが若者なのである。 年金制度に加入する若者たちは年金制度に加入する高齢世代の負担をしながら、同時に年金制度から弾き出された高齢世代の負担も行う「二重の負担」が必要だ。その上、自分の老後のための貯えや子育ても併せて行う必要があり、「二重の負担」どころではなく「三重の負担」「四重の負担」が実態だ。 政治や政府、その背後にいる高齢世代が年金制度改革を怠ってきた貧乏くじを引かされるのはやはり若者たちだ。