一度は脳梗塞に倒れたが…70代経営者、いまから「賃貸事業計画」に取り組む切実理由
財産を放置すれば、多額の相続税発生もやむなし
佐藤さんの財産は、自宅のほか、所有する貸しビルが1棟、その他金融資産で約3億円程度です。借入はありません。配偶者には税額軽減の特例がありますが、妻にも不動産と金融資産があり、二次相続での相続税が増えてしまうことから、使うメリットはありません。 居住用の小規模宅地等の特例が適用できるのも妻だけであり、小規模宅地等の特例は賃貸しているビルを選択することが得策となります。
駅近の立地を最大限生かす
佐藤さんご夫婦がいちばん気がかりに思っているのは、自宅の老朽化と、家族の人数にそぐわなくなった、多すぎる部屋数です。佐藤さんは体調が戻って来たことから、これからは自宅でのんびり過ごしたいと思うようになりました。 自宅を売却して高級有料老人ホームに入るのも方法ですが、立地がよく、価値の高い自宅を手放したくないと考えています。 その場合の選択肢は、自宅のリフォームか建て替えです。リフォームなら費用は少なくてすむものの、生活するエリアが1階だけになり、2階が活用できなくなるかもしれません。また、空調設備は各部屋にエアコンがあるのみで、廊下や踊り場は温度管理ができない状態です。それでは、冬場のヒートショックが心配です。 このような理由から、佐藤さん夫婦は「建て替え」に気持ちが傾いていました。
生活エリアは、階段のない1階に…
「妻とも相談して、建て替えようという話になり、いくつかのモデルハウスを見学ました。最終的に、全館空調の設備が組み込めるハウスメーカーが候補となったのですが…」 自宅があるエリアでは、敷地の200%の面積が建てられるため、4階建て・5階建ての建築が可能です。ただし、4階以上になればエレベータの設置が必要なため、3階建てが無難という話になりました。 また、佐藤さん夫婦は両親の介護も経験しています。介護が必要になると階段が大変になることから、ご夫婦は1階での生活を希望しています。
自宅建築「3つの選択肢」
容積的には150坪程度が建てられることから、1階が50坪となり、1フロアで現在の2階建ての建物の広さを確保できます。 また、相続税的にはどういう建て方をすれば節税になるのかも検証しました。 (1)自宅のみ 配偶者なら小規模宅地等の特例が使えますが、子どもはすでに自宅を購入しており、次世代は使えません。二次相続を考えた場合、配偶者に自宅の全部を相続させると次の相続税が増えてしまうため、得策ではありません。また容積率200%のエリアであり、上層階を利用したほうがよいといえます。 (2)二世帯住宅 すでに自宅を保有していることから、子どもの家は小規模宅地等の特例から除外され、効果が半減するため、得策ではありません。 (3)賃貸併用住宅 1階を自宅、2~3階を賃貸にできます。もし自宅に小規模宅地の特例が使えなくても、2~3階の貸付用の小規模宅地等の特例が使えます。賃料も2フロア分入り、建築費の借入返済のめどがつくことから、大きな不安はないといえます。仮に、子どもが1フロアを使用貸借として住む場合、1フロア分の自宅の特例と、貸付用の特例が使えることになります。ただし、受け取る家賃が1フロア分になる場合は、返済原資が少なくなるため、子どもからも家賃を受け取るなどの補填が必要でしょう。 このように比較してみると、1階を自宅とし、2~3階を賃貸するのが、賃貸事業として安定すると判断できました。建築費の借入を差し引くと、相続税は現在より大きく減額できます。