母乳バンクがリニューアル ~ミルクの供給能力3倍に~
◇厳格な安全性で運用
日本橋母乳バンクの前身は、2014年に昭和大学江東豊洲病院でスタート。年々需要が高まり、20年から現在の場所で日本母乳バンク協会が運営している。 バンクには、母乳がよく出る母親がドナー登録する。その際、血液検査、輸血や臓器移植などの有無、喫煙や飲酒をしていないなどのチェックが行われ、基準をクリアした人だけがドナーになれる。 指定パックに入れられた母乳が冷凍便で届くと、処置室へ。中はクリーンルームで医薬品が製造できるレベルの清浄度が保たれている。 まずパック表面の消毒、穴が開いていないかなどの確認作業から始まる。医療用冷蔵庫で一晩かけて解凍後、処理に入る。 溶けた母乳を低温殺菌器専用ボトルに移す工程は、より洗浄度が高いクリーンベンチ内で、一つ一つ手作業で行われる。殺菌前に一度、細菌検査。細菌の種類や数によっては、この段階で中止する物もある。62.5度で30分殺菌し、もう一度、細菌検査を行い無菌であることを確認し、ドナーミルクが完成する。ベンチ内で発送用のボトルに移した物を冷凍庫で保管し、医療機関の要請に応じて発送する。
◇安全なドナーミルクを届けるために
早産や極低出生体重で生まれてくる赤ちゃんは全国で年約5000人。23年度のドナーミルクを利用した新生児の人数は1000人を超え、利用病院数も右肩上がりだ。今後も需要増が見込まれる中、施設の処理能力が追い付かない可能性が高まっていた。 今回のリニューアルで、処置室の面積が以前と比べ約2倍に。1日当たりの母乳の処理能力も、クラウドファンディングで最新の母乳低温殺菌器を1台導入し計3台となったことから、3倍ほど向上。保管のための冷凍庫も増設され、供給力の改善が期待される。 残る課題は、運営資金と体制だという。資金は主に、病院の利用料と企業などからの寄付で賄われている。ただ、低温殺菌器は英国からの輸入品で、資材費・維持費の高騰や円安などが要因となり、常に赤字経営という状況だ。 資金不足は雇用にも影響し、作業スタッフの増員ができず、供給停止のリスクがある。 厚生労働省をはじめとした行政機関も、母乳バンクのサポートを検討し始めてはいる。ただ、ドナーミルクについて食品か医薬品か区分が定められておらず、実現には時間がかかるという。水野医師は「国や企業だけでなく、みんなで支える母乳バンクにしたい」と話している。(柴崎裕加)