【引退も覚悟したが…】見事な逆転でGPシリーズ初制覇 樋口新葉を完全復活に導いた「新戦略」の中身
「天才少女」がカムバック
フィギュアスケートシーズンの本格的な幕開けを告げるグランプリ(GP)シリーズ、10月18日開幕の第1戦・スケートアメリカが始まった。今季は’26年ミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪のプレシーズン。約1年3ヵ月後に控える大舞台出場を見据えた、熱い氷上の戦いが期待される。 【写真】GPシリーズ初制覇! 樋口新葉の華麗なる演技…! スケートアメリカでは、ペアで’23年世界選手権覇者の「りくりゅう」こと三浦璃来(22)、木原龍一(32)組が1年7ヵ月ぶりの国際大会優勝を果たし、シングル男子では19歳の三浦佳生(オリエンタルバイオ・明大)が3位に輝き、表彰台に立った。 日本勢の活躍の中でひときわ大きな輝きを放ったのが、23歳の樋口新葉(わかば・ノエビア)だ。’16年シーズンからGPシリーズに参戦してから9年目、実に14戦目にして初優勝を成し遂げた。’22年の北京冬季五輪で団体銀メダルに貢献した後、一度は引退を考えて休養したかつての「天才少女」の見事なカムバックだった。 「まさか今日、今回の大会で初めて優勝することができるとは思っていなかった。本当にびっくり。練習を続けてきたことの一つご褒美かな」 と試合後に明かしたように、満面の〝新葉スマイル〟が銀盤に映えた。 SF映画『デューン 砂の惑星』の楽曲を使った今季のショートプログラム(SP)を無難にまとめ、昨季の世界選手権2位のイザボー・レビト(米国)と2.31点差の4位で臨んだフリーで鮮やかな逆転劇を演じた。 「I’m so happy. So surprised(とても幸せです。びっくりしました)」 表彰式後の記者会見、樋口は英語で喜びをそう語ったのち、初優勝の要因を分析した。 「今シーズンの目標として、ショートプログラムもフリーも最初から最後まで余裕を持って滑れるように、途中でミスがあっても自信を持って滑りきるという練習を心がけてきた。それが今日の試合でできたということがまず一つ。あとは運が70%ぐらいかなと思います」 ◆「最後まで全力」を体現 フリー序盤、連続3回転を狙ったルッツ-トーループは3回転-2回転となった。基礎点が1.1倍になる演技後半に3連続を予定していたジャンプは、最初の3回転ルッツで着氷が乱れて単発になった。本人が「全然完璧な演技ではなかった」と言うように取りこぼしはあったが、まさにそこからのリカバリーが「70%の運」を引き寄せたのだ。 終盤の3回転ループにダブルアクセル、2回転トーループをつけて3連続ジャンプを成功させると、最後の3回転フリップでは、コンビネーションジャンプにすることも考えながらも自分の体力と相談し「失敗するよりはきれいに降りたほうがいい」と単発を選択。華麗に決め、出来栄えで加点を積み上げた。 6月末から国内の地方大会に出場するなど、早めに仕上げてきた成果かスピン、ステップは全て最高難度のレベル4を獲得。表現面でも名振付師シェイリーン・ボーンが手がけた『Nature Boy』の細やかで独創性の高いコレオシークエンスを存分に披露し、目の肥えた米国のファンを大いに湧かせた。今季のテーマとする「最後まで全力」を体現して見せ、「成長を感じた」と確かな手応えを口にした。 ショートプログラム上位の3人が得点を伸ばせず、樋口の優勝が決まると、「えー!」という声が会場裏でこだました。ほおをつねって現実であることを確認するベタなしぐさも愛らしく、2位が最高だったGPシリーズで初めて表彰台の中央に立つことに。 「全然慣れていなかった。いつも(別の日本選手の)〝おこぼれ〟みたいな感じで、君が代を聞いていたので、自分の結果で聞けたのは、なんか新鮮でした」 と顔をほころばせた。 後編記事『【明日は練習来ますか?】GPシリーズ初優勝・樋口新葉を燃え尽き症候群から救った「恩師」の存在』では、樋口が初となるGPシリーズ制覇を果たした裏で彼女を支えた「恩人」の存在について取り上げる。 取材・文:秦野大知
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