アイルランドのギャップイヤー制度に世界中から注目が集まる理由とは? 15歳で経験する“冒険の1年間”の驚くべき利点
アイルランド出身俳優の活躍もTYへの関心を後押し!
アイルランドのTY制度が注目を集めている背景には、オスカー俳優のキリアン・マーフィーをはじめとするアイルランド出身の俳優の活躍と、彼らが「(俳優としてのいまがあるのは)TYのおかげだ」と語っていることもある。 マーフィーは、TY時代にドラマに夢中になり、演劇のワークショップを通じて、舞台への情熱を育んだと、過去のインタビューで語っている。 また、ポール・メスカルも、TYをきっかけにミュージカルの魅力を知ったと述べている。それまでは「ずっとスポーツ少年で、演劇のオーディションを受けるなんて考えられなかった」が、演劇を選択した生徒は全員それを受けなければならない状況に置かれたことで、将来の道が開けたと「ガーディアン」に明かしている。
一部では「怠け年」との揶揄も?
アイルランドのTY制度は、1974年に試験的に導入され、1994年より州立および私立のほとんどの学校でカリキュラムの一部として採用された。 当初からその目的は、生徒に学業以外の文化的および知的な充実を追求するための空間を与えることだった。提供されるプログラムは学校によって異なるが、全体を通して「生徒が自己啓発と社会奉仕に時間を捧げられる」ように設計されている。 TYには通常の学校カリキュラムのような成績評価がなく、生徒は自由な環境で自己探求ができるのが特徴になっている。 過去20年間で受講率が2倍になったという事実を、教育省は「TYの利点の証拠」としてみており、「TYを通して生徒がより成熟している」との見解をみせている。 ただ、「自由な環境」ゆえに、一部では「怠け年」と揶揄されることもある。 通常のカリキュラムがすべての生徒に適しているわけではないのと同様に、より自由なTYにうまく対応できない生徒がいるのも事実だ。 また、実際にはプロレベルのミュージカルを上演できる学校や、一流のビジネスコネクションを持つ家族まで、生徒の経験は「リソースに依存している節がある」と、英紙「フィナンシャル・タイムズ」は指摘している。 たとえば、スキー旅行など、なかには約数十万円の高額なアクティビティもあり、エリート主義と見なされる側面もある。経済的に恵まれない地域の学校は、保護者が負担する費用を抑えるなどの工夫をしているが、地域や各家庭の予算の差が、生徒の経験にも差を生み出しているのは否めない。 このような課題はあるものの、多くの10代やその保護者、教育者らは、生徒が新しいスキルや興味を発見し、学校生活のなかで重要な転機を迎える場としてTYを支持している。
COURRiER Japon