「返納しない場合は逮捕する」パスポート返納のカメラマン杉本祐一氏の記者会見、配布資料全文
その翌日に、今度は新潟県警の中央警察署の警備課長からお会いしたいとの電話をいただき、喫茶店でお会いしました。その時も「シリア行きをやめてほ欲しい」「行きます」とのやり取りだったのですが、警備課長は最後に家族の連絡先を教えて欲しい、無事に帰ってきて欲しいと、言ってくれたのを記憶しております。その後の7日の午後7時頃、私が外出先から自宅へと戻ると、近くの駐車場にライトをつけっぱなしの車が止まっており、その光の中に浮かんだ数人の男達の姿がありました。そして、自分が自宅玄関を開けようとした際に、男たちは駆け寄ってきて「杉本さんですか?」と声をかけてきました。「あなた方は?」と聞くと「外務省から来ました」と答えたのでした。 外務省の職員達に「部屋に入れて欲しい」と言われたので、部屋に案内しました。私の正面に外務省領事局旅券課の外務事務官が座り、その横には、課長補佐が立っておりました。その後ろに警察官2名が立っていました。そこでまた「行かないでくれ」「行く」とのやり取りとなったのですが、「パスポートを返納しろ」とも言われ、「返納しない」と応じました。その後、外務事務官は岸田文雄外務大臣の名前入りのパスポート返納命令書を読み上げ、旅券法の辞典を開、ここを読め、と言われたので、読みました。 こうしたやり取りの中で、「返納しない場合は逮捕する」と2、3回言われました。どうしようかと読みましたが、どちらにせよ逮捕されてしまえば、パスポートは没収されること、狭いところに押し込まれ、事情聴取を受け、起訴され裁判になった際の弁護士の費用を考えました。これらのリスクを考えた際、パスポートの返納に応じざるを得なかったのです。そして、夜7時55分頃、外務省の職員らは私のパスポートを持って引き上げていったのでした。
私も、シリアに退避勧告がだされていることは知っており、外務省からもそうした説明を受けていましたが、退避勧告とは、あくまで危険情報であり、強制力を持たないものだったはずです。確かに、旅券法には、旅行名義人の生命・財産を保護する目的で返納を命令できるとは書いてありますが、一口にシリアと言っても場所により状況は全く異なります。先ほども申し上げましたように、私はイスラム国の支配地域には行くつもりはありませんでした。コバニはイスラム国から解放されており、クルド人部隊の警護の下でプレスツアーが行われ、多くの外国の記者が取材に入っておりましたので、コバニならば、大丈夫であろうと私は判断しました。また、今回、もし可能であれば自由シリア軍の支配地域での取材は考えておりましたが、私も20年間の経験から、決して無理はしないと決めており、あくまでコバニや、トルコ側のアクチャガレの取材を優先しておりました。 報道関係者が、外務省にパスポート強制返納されたのは、戦後、日本国憲法が交付されて以来、初めてのケースだと聞いております。私としましては、自分のパスポートを取り戻したいのは勿論のこと、私の事例が悪しき先例になり、他の報道関係者まで強制返納を命じられ、報道の自由、取材の自由を奪われることを危惧しております。つきましては、できるだけ早くに、外務省に異議申立てを行い、場合によっては法的措置も取ることを検討したいと思います。 ご静聴ありがとうございました。