深刻な日本の痴漢犯罪...アンチも多い「抑止バッジ」発案者に届いた意外な声
誹謗中傷は連鎖する―それでも呼びかけをやめてはいけない
社会に氾濫する痴漢冤罪論や被害者への誹謗中傷。そうした粗悪な言葉と、私たちはどのように向き合えばいいのだろう。 松永は次のように語る。 「私の体験から感じるのは、誰かが誹謗中傷をはじめると、影響されて次々と同じことを言う人が出てくるということです。本来、ネットの言説はきちんと吟味して取捨選択していかなければなりません。しかし、今はそれをせず、目に付いた誹謗中傷に乗っかるようにして誰かを批判することが普通になってしまっています。 彼らがしているのは批判のための批判なので、きちんとした言葉で話し合おうとしてもムダです。批判を楽しんでいる人たちには、何をどう言っても通じない。残念ですが、相手にするのをやめるしかない。ただ、黙っていても耳に入ってくるので悔しい思いはしますけど」 最初の頃、松永は辛抱強く対話をしようと試みたが、すべて徒労に終わったそうだ。そんな彼女たちを精神的に支えたのは、良心を持った人たちから寄せられた温かな言葉だった。 缶バッジのプロジェクトをはじめた時、松永たちはクラウドファンディングを通して賛同者を募った。自分たちだけでやるより、不特定多数の人たちを巻き込んで行わなければならないと考えたからだ。すると、彼女たちのもとに応援の声が次々と集まるようになったのである。 次のような言葉だった。 <学生時代、私も被害者だったから。なのに、何もできずに大人になってしまった。いろんな声に負けずにプロジェクトを立ち上げてくれてありがとう。これからも応援しています!> <応援しています。数多くの被害に遭い、声を上げられないまま、とても悲しく悔しい思いをしてきました。こんな活動があったら、どんなに心強かったか。大変だと思いますが、どうか負けないで下さい。些少ですが、お役に立てて下さい。>
男性からの応援の声もおどろくほど多かった
松永にとって意外だったのが、賛同者の中には男性も少なからず含まれていたことだ。クラウドファンディングをはじめた当初は、男性からの支持はさほど期待していなかった。だが、蓋を開けてみると、賛同者の3割は男性であり、次のような声が届いたのである。 <私は男ですが、こうした問題は本来男が関心を持ち、社会に働きかけるべきものだと感じました。支援します。> <自分の彼女がたか子さんと同じような辛い経験をしていて、何か自分にできることはないのか考えていたところにこの発案に出会いました。本人は仕方ないと半ば半分諦めかけていたのですが、このバッジで少しでも状況がよくなることを願ってやみません。 性犯罪者がいなくなることは難しくても、性犯罪が起きにくい環境を社会全体の知恵と工夫で作ることはできるはずです。いつか、男性が痴漢を始めとする性犯罪をすることがとても難しい環境になることを祈っています。> <実際に被害に遭われた殿岡さんが「被害者も加害者もつくりたくない」と思っていらっしゃることに驚きと感銘を受けました。残念ながら、私たち法曹関係者は被害者と加害者が生まれなければ行動することができません。 このプロジェクトが成功して痴漢被害がなくなること、そして、性犯罪に苦しむ人がいなくなることを願っております。> 松永はこれらのメッセージを見た時の思いを次のように語る。 「批判の言葉にたくさん傷つきましたが、温かなメッセージには大きな勇気をもらいました。みんながみんな敵というわけではない。男性であっても、見てくれる人はちゃんと見て支援してくれている。そう思えたことが、活動を進めていく上での力になったことは確かです」 いくらネットに罵詈雑言が飛び交っていても、温かな意見が届けば、活動はつづけられるという例だろう。 とはいえ、松永は誹謗中傷を放置すればいいと考えているわけではない。間違った情報、ゆがんだ意見は、正しいものに書き換える必要がある。彼女は言う。 「世の中の批判的な言葉を打ち消すには、主に2つのアプローチがあると思っています。1つが、痴漢に関する正確な情報を提示することです。社会に広まっている痴漢の情報には間違ったものが多い。 しかし、そこに科学的なエビデンスのある情報を広めれば、人々は情報の誤りに気が付き、正しいものへ更新しようとします。そうすれば世の中全体の認識が変わっていくはずです」