実録ドラマに陰謀論が絡む都市伝説、衝撃のトンデモSFまで…『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』とあわせて観たい、月面着陸を題材にした映画たち
アポロ11号による人類初の月面着陸の裏側で繰り広げられた駆け引きを描くスカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム主演作『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』(公開中)。ニール・アームストロング船長が記した「人類にとって偉大な一歩」が実はフェイク映像だったという衝撃的な本作は、虚実を巧みに組み合わせたワザありのエンタテインメントだ。本作の舞台となった月は、映画の黎明期から様々な形でスクリーンに描かれてきた人類憧れの別世界。本作にゆかりのある人物や仕掛けの月映画を紹介したい。 【写真を見る】ウディ・ハレルソン演じる大統領の側近を名乗る謎の男(『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』) ■NASA職員たちが月面着陸に向けて奮闘する『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』 人類を月へと送り込むNASAの国家的宇宙プロジェクト「アポロ計画」。ところが実験は失敗続きで、気づけば宇宙開発競争はライバルのソ連に大きく後れを取っていた。そんな状況を打破すべく、NASAは1969年に人類初の月面着陸を目指し、アポロ11号を打ち上げようとしていた。プロジェクトを世界にアピールするため雇われたやり手のPRマーケター、ケリー(ヨハンソン)は、NASAの発射責任者コール(テイタム)と対立しながらも、国民の宇宙熱を盛り上げていた。失敗が許されない月面着陸の衛星生中継を確実なものとするために、ケリーは政府筋から月面着陸を俳優にスタジオで演じさせ、テレビで放映するよう命じられる。 ■ニール・アームストロング船長の偉業を追体験させる『ファースト・マン』 『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は全世界が固唾をのんで見守った偉業を支えた裏方たちの物語だが、劇中には「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である」という名言で知られるアームストロング船長はじめ宇宙飛行士たちも登場する。『ファースト・マン』(18)は、そんなアームストロングの素顔を描いた伝記映画だ。監督、主演は『ラ・ラ・ランド』(16)で世界中を虜にしたデイミアン・チャゼルとライアン・ゴズリングのコンビ。不安定な操縦で宇宙飛行士候補から外されたアームストロングが、幼い娘の死をきっかけに月への飛行に全力で挑む姿が描かれる。 オープニングのテスト飛行シーンから映画は全編リアル志向。主観映像を取り混ぜながら、アームストロングのミッションを追体験させる構成になっている。アンダースコア(劇中の人物には聞こえない物語を盛り上げるための音楽)はほとんど使わず効果音中心という徹底ぶりで、月面着陸シーンなど思わず息を止めたくなる臨場感が味わえるワザありの作品だ。関連作として、本作に登場した伝説的パイロット、チャック・イエーガーを中心に宇宙計画を支えた飛行士やテストパイロットを描いた『ライトスタッフ』(83)もおすすめだ。 ■月からの電波を送受信するパラボラアンテナのセッティングに挑んだ人々の実録ドラマ『月のひつじ』 『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、人類初の月面到着を既成事実にするために“すべり止め”を作らせるお話だが、リアルの世界では放送に絡んだもう一つの問題が起きていた。月面到着のスケジュールがずれたため、着陸時の月の位置がヒューストンから見て地球の裏側になると判明。世紀の瞬間、月からの電波はアメリカに届かないことになったのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、オーストラリアの小さな田舎町にあるパークス天文台のパラボラアンテナだった…。『月のひつじ』(00)は、月からの電波の送受信という偉業を支えた人々の、これまた実話の物語。想定外の大仕事に浮足立ちながら、アンテナのセッティングや停電など数々のトラブルに対処する関係者の姿をユーモアたっぷりに描き上げた、『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』と表裏一体の作品なのだ。 ■月面着陸のフェイク映像をキューブリックに依頼する!?『ムーン・ウォーカーズ』 アポロ11号の月面着陸は捏造だという都市伝説は古くから囁かれていたが、失敗に備え、CIAエージェントがスタンリー・キューブリックに月面到着のフェイク映像を依頼するお話が『ムーン・ウォーカーズ』(15)だ。キューブリックのエージェントに間違えられた借金まみれの音楽プロモーターが、ニセのキューブリックを用意。ウソがばれ、代わりにアングラ系の監督に依頼をするが…というハイテンションなドタバタ劇。キューブリックは導入程度の扱いだが、笑いとスリルとアクションをブレンドした痛快作&フィクションである。 ■アポロ18号のクルーが月面で謎の生命体に襲われる『アポロ18』 『アポロ18』(11)は1974年に中止されたアポロ18号計画が実は実行されていたという都市伝説チックなSFスリラー。ソ連からの攻撃に備え、アメリカは月に早期警戒探知機の設置を決定する。その任務を果たすべく月面に降りたアポロ18号のクルーは、そこでソ連の宇宙飛行士の死体を発見。彼らを襲ったのは謎の生命体だった…。設定は70年代。低予算のファウンド・フッテージものだが、広角レンズの歪んだざらついた映像が、リアルな雰囲気を醸しだしている。 ■『トランスフォーマー ダークサイド・ムーン』、『カプリコン・1』といった作品も ほかにも陰謀系では、アポロ11号の月面探査には月の裏側に墜落したサイバトロンの宇宙船調査という裏の目的が隠されていたという『トランスフォーマー ダークサイド・ムーン』(11)などもあるが、捏造を題材にした代表作が火星探査を描いた『カプリコン・1』(77)である。発射直前に発覚したトラブルのため、NASAはフェイク映像を使って初の火星探査成功を捏造。ところが帰還時にロケットが消失したため、宇宙飛行士は自分たちが消されると悟りNASAの施設から逃走する。スリル満点の作品で、フェイク映像の撮影シーンは『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』に通じるものがある。 ■19世紀英国の科学者たちが月面を冒険する『H.G.ウェルズのSF月世界探検』 フェイク映像作成のほか、フェイクと中継映像の入れ替えなど二転三転する展開も魅力の『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』。月を絡めたヒネリを効かせた個性派作を紹介したい。『H.G.ウェルズのSF月世界探検』(64)は、19世紀の月旅行を描いた冒険もの。ヘリウムを使った反重力混合物を塗った宇宙船で月に飛んだ英国の科学者たちが、月の地底で月人セレナイトたちに遭遇する。月面に降り立った国連宇宙船の飛行士がボロボロのイギリス国旗を発見するオープニングや、英国人が持ち込んだ風邪により免疫を持たない月人が絶滅するなどユニークなアイデアも楽しい一本。視覚効果とデザインはSFXのパイオニア、レイ・ハリーハウゼンが手掛けている。 ■ナチス残党が月に帝国を築いていた『アイアン・スカイ』 『アイアン・スカイ』(12)はアポロ17号以来46年ぶりに月に向かったアメリカ人が、ナチスと出会う物語。敗戦前に宇宙ロケットで月に向かったナチスの残党たちが独自の帝国を築き上げ、地球侵攻の準備を進めていたという奇想天外な作品だ。月にそびえ立つ基地のスケール感、地球に進軍するクラシカルな宇宙艦隊など、低予算を感じさせないスペクタクルは圧巻!核戦争で地球は壊滅状態になり、生き残った人々が暮らす月面基地で新たな争いが勃発する続編『アイアン・スカイ/第三帝国の逆襲』(19)も製作された。ほかにも、暴力と腐敗が蔓延する月の居住区で女殺し屋が暗躍する『ティコ・ムーン』(97)、月面基地の任務から逃れられない男を描いたサイコ風サスペンス『月に囚われた男』(09)など月を舞台にした映画には個性派作が少なくない。 三日月から満月へ、古くから月の満ち欠けは人に影響を与えるといわれてきたが、映画の世界でも月はロマンチックな気分にさせたり、狼男を呼び起こすなど感情をかき乱す存在として使われてきた。そんな月を目指す人々を描いた『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』は、決定的瞬間のフェイク作りだけでなく、反目していた男女が真実の愛に目覚める姿を描くロマンチックコメディとしても楽しめる。人類初の月面到着の裏側で繰り広げられた大騒動を、スクリーンで味わってほしい。 文/神武団四郎