卒業制作のテーマが「場外馬券場」だった東大准教授、現在は古建築のメンテナンスを提言
世界最古の木造建築である奈良の法隆寺は、創建時の姿で現存してはいない。後世に修理され、「受け継ぐ」行為の蓄積で守られ続けてきた。
「建築の世界では、華々しい建設時と比べ、メンテナンスは地味に思われる。『受け継ぐ』行為に携わってきた人たちにも、スポットライトを当てるべきです」
東大准教授で、日本建築史が専門。国宝の薬師寺東塔や興福寺五重塔の修理などに携わる。知見を生かし、「建築メンテナンスの歴史学」という新たな視点を提供する。
前近代までは「変化を許容した『寛容』なメンテナンス」が行われていたという。古い宮殿や住宅が仏堂に転用されたり、地震で壊れた建物の応急措置として、別の建物から取った古い柱を「つっかえ棒」にしたりすることもあった。
「前近代の『寛容さ』も取り入れつつ、建築のライフサイクルを考えることが重要だ」と提言する。
1983年、千葉県生まれ。中学の頃から京都や奈良の古建築に関心があった。東大では理系で、歴史も扱う建築学科に進んだ。卒業設計のテーマは場外馬券場だった。「建物を作る側の視点を学び、修理の仕事に生かされています」
日本で育まれた木造建築の修理技術は、国際的に高く評価される。ただ近年、人口減少などで古建築を守り続ける難しさも指摘されている。
修理の分野でもAI(人工知能)の活用など技術革新が進むが、「AIは80%の人に対し、80%の解答を出す道具」と持論を語る。修理には「専門家が議論し、先人の知恵と最新技術の双方を生かした最適解を導き出す必要がある」。
「古建築が失われれば文化の多様性がなくなり、均質的な世界になる」。2人の幼い娘のためにも、古建築の価値が守られ続ける未来を願う。(岩波書店、3740円)(多可政史)