「食堂でABC予想が解けなかった」 世界的な数学の〝難問〟スープ…京大教授が頭を抱えた「具材クイズ」
学食で「ABC予想」が解けなかった――。世界中の数学者を悩ませてきた超難問「ABC予想」にあやかった大学の学食メニューが、SNSの投稿で話題になりました。なぜこんなメニューが誕生したのでしょうか。そして、この「ABC予想」の「解」とは……。数学記者が解き明かします。(朝日新聞科学みらい部・石倉徹也) 【画像】トマトスープの「ABC予想」 〝難問〟の正解はこちら
メニューの具材、誰か「解」を教えてください
話題になったのは、物理学者である京都大学教授の橋本幸士さん(@hashimotostring)が11月5日、構内の生協食堂でランチした際に投稿したものです。 「北部生協食堂でABC予想が解けなかった」「誰か解を教えてください」との文言とともに、食堂のメニュー表と食事の写真が投稿されています。 投稿によると、そのメニューは「ABC予想のトマト煮込み」(税込み286円)。 メニューには「世界的に有名な難問ABC予想は望月教授が解いちゃったから、私たちは『このトマトスープのABCとは何の具材の頭文字か』 この難問を解いてみよう!」と吹き出しが添えられていました。 ABC予想とは、世界中の数学者を悩ませた整数論の難問です。1985年に提案され、a+b=cという単純な式から予想が始まるため、ABC予想と名付けられました。 足し算とかけ算の特別な関係性を示す問題で、整数を統制する「番頭」として位置づけられていました。 2000年以上の歴史がある整数論の中で「最も重要な未解決問題」と言われるほど、難問中の難問でした。 その難問を解いたのが、京都大学数理解析研究所の望月新一教授(55)です。 望月さんは、20年近くかけて独自理論「宇宙際タイヒミュラー理論」を一人でつくり、この理論でABC予想を証明したと2012年に発表。2021年に論文が数学誌に掲載されました。 難問にあやかり、トマト煮込みの具材を当てるクイズが、同じ京都大学の生協食堂に登場したというわけです。
ヒントは「食材にもいろんな言い方が…」
なぜ、超難問にあやかったメニューを考えたのでしょうか。 京大生協に聞くと、企画したのは生協学生委員会「あらんじぇ」の学生でした。 法学部2回生の石黒潤也さん(20)によると、毎年期間限定メニューを企画しているそうで、昨年は「甘党VS辛党」と称して、甘い食べ物と辛い食べ物を提供しました。 今年は、他の学部のことをよく知るために京大に10ある学部をモチーフにしたメニューを考えることにしたそうです。 理学部と聞いて石黒さんが思いついたのが数学でした。そこからは連想ゲームのように、数学→未解決問題→ABC予想と発想し、頭文字がABCの具材当てクイズを考えたといいます。 当初、「Aはアスパラガス」と考えましたが、具材調達などで難しく、あきらめました。 ちなみに、他の学部をモチーフにしたメニューはというと、経済学部は「レイバーレバー」、法学部は「くたくた法曹」、工学部は「桂ーメン」。名前から何となくメニューが想像できます。 さて、問題のABC予想のトマト煮込み。記者も、数学の魔力にはまり、ABC予想や望月教授をずっと追いかけ、出版された分厚い望月理論を1万円で買った身です。絶対に当てなくは。 Bはブロッコリー、Cはキャロット(にんじん)と分かりましたが、Aが非常に難しいです。 ヒントを聞くと、石黒さんは「食材にも色んな言い方がありますよね」。 正解は、「Allium cepa」の学名がある「たまねぎ」とのこと。 正解率は1割ほどだったそうで、さすが京大生と思いました(メニューは11月8日までの期間限定で、今は提供していません)。