<掛布が語る>阪神の江夏臨時コーチに意義はあったか?
アスリートだけでなく、これはサラリーマン社会にも言えることだが、ある一定の段階までは、強制的に各種練習を行わされることで体力、技術などの成長は見られる。だが、それもあるレベルまで達すれば停滞して壁にぶつかる。プロの世界では、特にそうだ。そこでその壁を打ち破るためには、自分で何が足りずに何を補えばいいのかを考え、目標を設定して自分からチャレンジしていくという主体性が重要な役割を持つ。 江夏さんは、8日間のキャンプを見る中で、主体性の欠如を最大の問題点として挙げたのだ。この指摘は指導者も含めて心して聞いておかねばならないだろう。 江夏さんは、沖縄を去る際、「江夏賞」としてグローブを島本浩也(22)にプレゼントされた。育成から這い上がってきた左腕。そこには「さらに頑張れ」のメッセージがこめられている。江夏さんの口からは、藤浪晋太郎、オ・スンファン、能見篤史らの個人名が何人も出たが、最も評価されていたのが、同じく左腕の筒井和也(34)だった。「先発としても飛躍する可能性のある投手だ」と目をつけられた。筒井は、プロ11年目の左腕で、昨季は28試合に中継ぎ登板して防御率5.03と結果を残せなかった。高宮和也一人では左腕のワンポイントも心もとない。江夏さんの評価を自信に変えてもらいたい。 阪神タイガースは、今年、球団創設80周年という記念のシーズンを迎える。そのスタートの沖縄キャンプで、数々の伝説的な記録やゲームを打ち立てられ、レジェンドと言われる江夏さんが、臨時コーチとして足跡を残されたことには大きな意義があったと思う。江夏さんが、何かを語る度に、マスコミも取り上げてくれたが、その際、80年の歴史というものが端々に報じられた。阪神には悪しき過去もあったのかもしれないが、歴史とは、未来へ進むための教科書である。江夏さんの登場によって、我々は、もう一度、伝統というものを継承することの大切さを考え直す機会に恵まれた。阪神の歴史をこれから81年、82年と、先へつないでいく責任が、我々にあるのだと強く感じた。 選手もそのことを胸に刻み、開幕準備を整えてほしいと思う。 (文責・掛布雅之/阪神DC、評論家/構成・本郷陽一)