世界経済の中期見通し①:中国経済が世界経済の重石に
中期成長率見通しは低下傾向が続く
国際通貨基金(IMF)は、向こう5年間の世界経済の中期見通しを発表している。最新の2024年見通しでは、5年後の2029年の世界の成長率見通しを+3.1%としており、2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)以来の成長率の低下傾向に歯止めはかかっていない(図表1)。 リーマンショック発生直後の2009年に、5年先すなわち2014年の成長率見通しは+4.8%だった。それが2024年の5年先すなわち2029年の成長率見通しは+3.1%と、15年の間に約1.7%ポイントも低下している。
こうした見通しは、IMFだけでなく民間の見通しでも同様だ。民間予測機関の見通しを集計した"Consensus Economics forecast"でも、2024年時点での5年先の見通し(2029年見通し)は+2.9%とピークの4%台後半から大きく低下している。 物価高騰を受けた2022年以来の大幅な金融引き締めのもとでも、米国経済は予想外の安定を見せていることから、米国経済の潜在成長率が高まったとの見方も浮上している。潜在成長率が高まれば、経済に対して中立的な金利の水準が切り上がっていき、金融引き締めによる景気抑制効果が効きにくくなるからだ。 米国については、移民の急増などによって潜在成長率が一時的に上振れている可能性はあるが、世界全体ではそのようなことは起こっていない。株式市場では、AIの利用拡大によって生産性が向上しているとの期待も浮上しているが、その効果は、過去15年程度にわたる世界の成長率の低下傾向を反転させるほどの影響力はないだろう。
中国の成長率は下方に大きく屈曲
世界経済の成長率のトレンドを押し下げる要因の中で、主なものとしては、労働力の増加率低下、設備投資の抑制、地政学リスクの上昇による市場の分断化、非効率な資源配分とそれを促す政府の規制、補助金政策などが考えられる。 これら諸要因が重なり、成長率の低下傾向が最も顕著となっているのは中国だ。2021年の人口減少の始まり、民営企業に対する政府の規制強化、米国との貿易摩擦を受けた先進国市場へのアクセスの後退などに加えて、足もとでは不動産不況が中国の成長率を押し下げている。 2023年の中国の実質GDP成長率は、ゼロコロナ政策の影響で大きく落ち込んだ前年の反動で、+5.2%と政府目標の5%前後に達成したが、2024年は+4%台に低下することが見込まれる。成長率を押し下げているのは、2022年頃から深刻化し始めた、不動産不況の影響である。しかし政府は、不動産開発業者を直接支援して住宅建設を促すなどの積極措置を講じることには依然慎重であり、不動産不況の出口はまだ見えていない。 ただし、中国経済の躓きは、近年のゼロコロナ政策の影響や不動産不況の影響によるものだけではない。中国は1970年代末から約30年にわたって平均10%程度の高成長を維持してきた。いわゆる「奇跡の高成長」である。しかし、2010年頃から成長率のトレンドは下向きに転じていった。成長率の下振れは、10年以上も前から始まっていたのである。 その背景にあるのは、農村部の余剰労働力の枯渇やそれに伴う賃金上昇だ。それによって、海外企業が中国の沿岸部に投資を拡大させ、安価な労働力を用いて生産を拡大し輸出主導で成長する、「世界の工場」という中国のビジネスモデルが次第に成り立たなくなっていった。 さらに、2022年からは人口減少が始まり、2016年に一人っ子政策を廃止したにもかかわらず、想定以上のペースで少子化が進んでいる。中国国務院は、中国の人口は2024年の14億2,500万人程度から、2035年に14億人、2050年に13億人にまで減少すると試算している。さらに、国連は中国の2100年の人口が7億6,667万人にまで減少すると試算する。 また、2018年以降は米国との貿易摩擦が激化し、米国及び先進国市場から中国が次第に締め出されていること、そうした中、中国政府は国内経済よりも米国への対抗という安全保障をより重視していることも、経済の低迷を助長しているだろう。