歯学博士照山裕子の100歳まで食べられる歯と口の話

「100歳まで食べられる歯と口の話」＜12＞ 　「スポーツの秋」といわれるように、この時期は過ごしやすく運動をするにはもってこいの時期です。SNSなどでも頻繁に運動会や体育祭の写真を目にするようになりましたが、口の健康のために気をつけたいのが運動中の飲み物の種類とタイミングです。 　厚生労働省が行う歯科疾患実態調査によると、小児の虫歯は確実に減少傾向にあるといえます。平成11年は3歳児の虫歯罹患（りかん）率が36・4％、5歳児で64・0％だったのに対し、平成28年にはそれぞれ8・6％、39・0％になっています。養育する保護者や教育機関に向けた啓発により、虫歯予防への関心が高まった成功事例といえます。しかしながらその内訳を調査すると、子どもたちは、口腔（こうくう）衛生管理の良いグループとそうでないグループに大別されることが多く、悪い方のグループでは本来虫歯になりにくいとされる下の前歯にも虫歯が発生することが多いという特徴があります。原因のひとつとして考えられているのが、スポーツドリンク（イオン飲料）の飲み方です。 　発熱や下痢、嘔吐（おうと）などによって軽度の脱水症状を起こしている場合にこうした飲料を与えることは決して間違いではありませんが、「体に良い飲み物」というイメージが先行しているせいか、普段の生活でもスポーツドリンクを与えてしまう家庭もあるようです。通常の食事をしている乳幼児に与えると電解質が過剰になり、余計にのどが渇く、さらに欲するようになる、という悪循環が生じます。糖分を絶えず含んでいると口の中が酸性に傾き続けることでエナメル質の脱灰が起こり、虫歯リスクがぐんと高まってしまいます。生活環境をヒアリングした際、就寝前はもちろんのこと、夜中に喉が渇いて起きる度にこうした飲み物を与えていたという事例もありました。虫歯予防には、歯みがきと同じくらい生活習慣が重要なのです。これは大人も同じです。