<一冊一会>冒険、知識、外国・地方事情、歴史…外出せずとも糧になる読書体験を味わえる一冊をおすすめ
猛暑が続くため、外出もままなりません。 でも、読書体験は、時に外出体験を上まわるものです。 【画像】<一冊一会>冒険、知識、外国・地方事情、歴史…外出せずとも糧になる読書体験を味わえる一冊をおすすめ
漂流文学
井上靖の『おろしや国酔夢譚』、吉村昭の『漂流』などの「漂流文学」に、新たな一冊が加わった。1600年代半ば、愛知県知多半島を拠点とする「颯天丸」は、江戸から地元に戻り、あと少しで正月を迎えられる直前、「大西風」という嵐に遭遇する。楫が壊れ、帆柱を折った船は太平洋沖に流された後、逆回転してフィリピン北上にある「バタン島」に漂着する。乗組員たちは無事に故郷に帰ることができるのか。史実をもとにした一冊。
「古典」の驚異を知る
本書によれば今や30秒に1冊本が出版されているそうだ。一方で、2000年以上前に書かれたプラトンの哲学書や、へロドトスのルポルタージュは、どのようにして今に伝えられてきたのか。「紙」はもちろん「キンドル」もない中で、人々によって途方もない手間をかけて守られてきたのが現在「古典」と呼ばれる書物なのだ。エジプト、ギリシア、ローマを起点に女性の動きにも注目して書物の歴史をたどっていく。歴史は男性だけのものではない。
民主主義の危機
狡猾に権力を手繰り寄せるヒトラー。そのヒトラーの要求に対して譲歩を重ねる英国のチェンバレン首相。一方で、ナチスの脅威を訴え続けるチャーチル。第一次大戦を経て戦争を回避したいチェンバレンの気持ちはよく分かる。しかし、ヒトラーに交渉は通じない。ドイツとの開戦に当たってチェンバレンは「私がどれほどつらい打撃を受けたか」「私にこれ以上の何かができて大きな成功につながったとは思えない」と述べたのに対して、チャーチルは首相就任に臨んで「差し出せるのは血と労苦と涙と汗だけであります」と国民に語った。今も昔も民主主義に必要なのは言葉の力なのだ。
香港の記憶
「拠って立つ自己の姿」がないと語られる香港。本書は、著者がさまざまな国や文化に囲まれながら、1997年~2020年の香港の姿を内部から描いたノンフィクションだ。狭くて環境が悪い、高い賃料のフラット(マンション)の話や、使用言語の違いが貧富の差に表れる話など、香港の生活の等身大のものである。目まぐるしく変わり、抗議デモの影響が残るこの都市を、著者自身はどのように考えているのか。香港に対する印象が変わるかもしれない。
属人的でない地方創生のために
地方創生の成功は、属人的でいいはずがない。そのような思いから成功した地方創生の例を取り上げ、その「型」のようなものを共通言語化していく。島根県にある隠岐諸島内の高校の生徒数減少に対して、全国から生徒を募集する「島留学」制度をつくった事例や、「合併しない」ことを選んだ岡山県の西粟倉村のローカルベンチャーを支援する事例。それらの「成功の型」を抽出してまとめ、地方創生に携わった人、これから関わる人の地方創生への解像度を上げていく。
WEDGE編集部