スカウトしてロケ!? KAT-TUN・中丸雄一が紹介 奇妙な写真集『ヤドカリのグラビア』とは
本誌をはじめとする雑誌の表紙やカラーページを飾る、グラビアアイドルたち。この「グラビア」とはもともと「グラビア印刷」という印刷手法から来ている。かつてのカラー写真ページはこの「グラビア印刷」が主流だったことから、「グラビア」と呼ばれるようになり、これらのページに出る女性のことも、いつしか「グラビアアイドル」と称されるようになった。 【す、すごい…谷間が……!】NMB48卒業後グラビア初出演時の、もっちりボディが美しい本郷柚巴 しかし、グラビアを飾るのは「グラビアアイドル」や男性タレントだけではない。実は、貝殻を背負って海底を歩く「ヤドカリのグラビア」もあるのだ。笠谷海斗さんは、ヤドカリ専門のグラビア写真家。ヤドカリに魅せられ、海中でヤドカリを“スカウト”し、最終的には貝殻を脱がせてしまうという。 そんな斬新な写真集だが、情報番組『シューイチ』(日テレ系)で提携先の本屋が紹介したことにより、話題となった。同番組の「まじっすか専門書店」の企画でKAT-TUN・中丸雄一もヤドカリの“モロ出し”を紹介した。今回は3冊の写真集を出版している笠谷さんに、ヤドカリの魅力や『ヤドカリのグラビア』誕生秘話などを聞いた(以下、カッコ内は笠谷さんの発言)。 ◆きっかけは図鑑の盲点に気がついたこと ヤドカリは国内に300種類以上、世界にも1100種類以上が確認されており、その姿かたちはさまざまだ。多くの人は、巻貝を背負い、茶色いカニみたいな地味な姿を想像するだろう。函館出身で、釣り好きの父とよく海に行き、小さいころから海洋生物が好きだった笠谷さんも、東京海洋大学の水産生物研究会という伝統あるサークルに入るまでは同じような認識だったという。 「初めて参加した合宿で、カラフルでさまざまな形を持つヤドカリに魅了されました! 僕をヤドカリ道に引きずり込んだのはヤマトホンヤドカリ。三浦半島や房総半島でも見ることができます。赤白の縞模様で目はエメラルドグリーンという、顔周りはイタリアンな感じなのですが、学名に『ジャポニカス』とあるように、日本のヤドカリの中ではメジャーなヤドカリです。右側のハサミのほうが大きいというアシンメトリーな姿もいいなと思いました」(笠谷さん) そこから、笠谷さんのヤドカリ研究がスタート。サークルでは伊豆や館山などに足繁く通い、磯や浅瀬でヤドカリを見つけては観察するようになった。夏休みには沖縄や小笠原諸島などにも足を伸ばし、南方のよりカラフルなヤドカリに心を躍らせた。 専門的な図鑑に目を通す機会も増えたのだが、こうした図鑑では、殻がない状態で背中側から撮られた写真しか掲載されていないことが多いという。一方、一般向けの図鑑では貝殻に入った正面写真が多いのだが、小さい写真が多くてディテールがわかりにくい。そこで、笠谷さんは自分のために、貝殻をつけた正面写真と、殻を外した背面写真を撮影するようになる。 「背面の全身写真を撮るためには、殻を外す必要があります。ヤドカリは先端のフック状の部分で貝殻をがっちりとつかんでいるのですが、本体を傷つけないように殻を割り、先端が見えてきたらそこをつつくと外すことができます。サザエのような大きな貝殻はハンマーでたたき、中くらいの貝殻は万力でゆっくりと締め、小さい貝殻は爪切りや針などを使います。この“脱がせ”には技術が必要で、随分上達しました」(笠谷さん) 殻を割ることはヤドカリ本体を無防備にさせることだが、生態を研究するためには避けては通れない。撮影や観察などが終わった後は標本にして保存し、今後の研究に生かしている。 「『ヤドカリのグラビア』で撮影した子たち(ヤドカリたち)も、だいたい標本として保管しています」(笠谷さん) ヤドカリを見つけた海辺で“ロケ”撮影をする場合と、水槽に入れて“スタジオ”撮影する場合がある。 「海でいいヤドカリを見つけたら、正面の写真を撮ります。ただ、生育している場所で撮影すると、周囲の岩場に同化してわかりづらいこともあるので、水深3~5mの、自然光が差し込んで海水のきれいな場所に連れて行って撮ることもあります。サークルの友達には、“またスカウトして撮影大会している”“拉致している”などと言われていました(笑)。海中で撮影するときは素潜りですが、ヤドカリをいい場所に置いて、貝の中から出てくるまでじっと待って、出てきたタイミングのシャッターチャンスを狙うので、結構大変です」(笠谷さん) 水槽でのスタジオ撮影では、白や黒の背景紙を使い、ヤドカリのディテールをしっかりと撮影しやすいが、息継ぎなどを気にせず、どこまでもこだわることができるため、気がついたら1種類のヤドカリを撮影するのに6時間も費やしてしまったこともあるという。 ◆学校祭で写真集を販売し大きな反響を呼んだ このように撮影して撮りためた写真を、大学3年のときに写真集にして、東京海洋大学の学校祭で販売し、水槽でヤドカリたちを展示したところ、大きな反響を呼ぶ。SNSで告知していたこともあり、わざわざ足を運んできた人も少なくなかったという。 「1冊目の写真集は、ヤドカリにもこんなカラフルなものがいっぱいあることを知ってもらいたくて、沖縄などに生息する南方種を集めました。ヤドカリに興味を持ってくれる人がたくさんいて、うれしかったですね」(笠谷さん) 『ヤドカリのグラビア』というネーミングも、このときに初めて付けられた。しかし、この名前に至るまでに半年悩んだという。 「これはヤドカリのグラビアであってエロ本ではありません。その証拠に、各部名称のページで、腹部側の写真を見せるとき、生殖孔が見えるのですが、ここは黒く塗りつぶしています。みなさんがはじめてヤドカリの生殖孔を見る機会を、僕の本で奪っては申し訳ない、という気持ちもあるからです(笑)。また、グラビアと銘打っている以上は、ヤドカリを脱がす、ということも外せません」(笠谷さん) 笠谷さんは翌年の大学4年のときに、本州に生息する、「地味だけど武骨」なヤドカリを集めた2冊目を、昨年にはヤドカリの生態をより詳しく解説した3冊目を世に送り出した。1冊目が予想以上に売れたため、そのお金で一眼レフのカメラを購入、2冊目からは撮影機材も技術もレベルアップし、美しいヤドカリの写真を堪能できる。解説文も、専門的なことよりも笠谷さんが観察したときの印象や、美しさなどに主眼が置かれ、笠谷さんのヤドカリ愛がひしひしと伝わってくる。 3冊目では「ヤドカリの性事情」を紹介するページもある。大きいオスが小さいメスの貝殻をつかんでいる写真があり、一見、オスがメスを守っているようだが、他のオスと交尾済で受精卵を抱卵しているメスをキープしておき、抱卵後にすぐに交尾できるよう持ち歩いているという。 「ほかにも、未成熟で次の脱皮でメスになりそうな個体をキープしているオスを見たこともあります」(笠谷さん) 大学時代をヤドカリの研究と撮影に捧げた笠谷さんの、ヤドカリ歴も約10年。社会人になった今も、休みの日には海辺に行き、自宅では水槽で約30匹のヤドカリを飼育し、研究を続けている。 「家には水槽が10個くらいあって、押入れには標本が収納されています。実はヤドカリは飼いやすいので、これから海水水槽での飼育を始めたい方にはおすすめ。最近結婚したのですが、妻は僕の好き勝手にやらせてくれるだけでなく、興味も持ってくれて、一緒に海に行ったり、イベントで出店するときの売り子を手伝ってくれたりしています」(笠谷さん) 3冊の写真集を眺めていると、日本だけでもこれだけ多彩なヤドカリが生息しており、それぞれに個性があり、何より美しいことに驚かされる。 「ヤドカリのアシンメトリーな形、美しさに惹(ひ)かれたのですが、とにかくかわいいんです。このヤドカリの魅力をもっと知ってもらいたいし、ヤドカリの飼育方法を紹介したり、いずれは海外のヤドカリも観察、撮影してみたいですね」(笠谷さん) 笠谷さんのヤドカリ愛はどこまでも深く、グラビア写真家としてのキャリアもまだまだ続く。 取材・文:𠮷川明子
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