「大学生による遠隔指導」を部活動地域移行のモデルケースに 発案者の東京家政学院大学・松山直輝助教に聞く
遠隔指導の可能性を示し、部活動地域移行の課題解消へ
大学生の指導力向上やパラスポーツ指導、遠隔指導の充実はもちろん、今回の研究の最大の目的は、部活動地域移行における重要課題の解消に向けた運用モデルを提唱することだ。まずはコストの問題。例えば元プロの選手や実業団チームの現役選手を指導者に登用すると莫大な費用がかかるが、大学生を登用すれば大幅にコストを抑えることができる。その上、大学生は在学中の4年間は継続して指導が可能であり、今後も部活動に後輩が入学してくることを考えると継続的に実施できる。そして、東京学芸大学だけでなく、教員養成大学は全国にある。このような点で、全国各地の教員養成大学でも再現性が高い。加えて, スマートフォン等の手持ちのICT機器を上手く活用すれば、設備面の費用もそれほどかからない。 企業と連携することで、同じく重要課題である保護者の負担軽減も実現しようとしている。具体的には、近畿日本ツーリストが監督(大学教員)、大学生、選手、保護者の間に入り、LINE上でシフトの調整や保護者への連絡、ケガなどの緊急時の対応といった事務局業務を運用するシステムが構築されているのだ。今後部活動地域移行が進んだ際にも、事務局業務に慣れている第三者の企業が入ることで円滑な運用が可能になると考えている。
松山さんに今後の展望を尋ねると、次のように話してくれた。 「東京学芸大の陸上競技部だけでも様々な種目の選手がいるので、この取り組みが発展すれば、別の地域や別の種目でも部活動を遠隔指導することもできる。他にも、ある中学校や特別支援学校の部活単位だけでなく、複数の学校の生徒が陸上競技の種目単位で集い、大学生による専門的な種目指導を遠隔で受けることもできる。こういった実証も続けていきたい。また今回の研究に関する記事を見て『うちの大学でもできる!』と思ってもらい、この方法論が普及すれば、過疎地での部活動の地域移行課題は一気に解決するはず。どこの自治体もなかなか具体的な解決に向けて動けていない中で、大学生たちができることを示せば、部活動をする中学生や特別支援学校生にとっても良い方向に進むと思う」 大学生による遠隔指導が、部活動地域移行の問題に一石を投じるか――。まだ始まったばかりの実証研究、その過程と成果に注目だ。 (写真 松山直輝氏提供)
取材・文 川浪康太郎